健康長寿に有用な抗加齢医学における「スロージョギング法」を実践して
院長エッセイ
(宇医会報より)
我が国も急速な少子高齢化の加速により、7年後の2,025年には65歳以上が30%以上を占める様
になり、国民医療費が56兆円を超えると推測され、税収入を上回り、国民皆保険制度の先行きも
憂慮されている。この国憂問題からも、高齢者の健康長寿のための抗加齢医学の重要性が再認識さ
れる様になった。
これまでの抗加齢医学のエビデンスとして、「酸化ストレス説」が提唱され、過度な酸化ストレス
の負荷により、ミトコンドリアで多量の活性酸素が発生して、加齢が促進され、逆に活性酸素を除
去する抗酸化酵素であるカタラーゼやSODを過剰発現させることで寿命が延伸することが立証さ
れている。
さらに、「カロリーリストラクション説」(カロリス)も提唱され、栄養のバランスを保った上で、
カロリーを70%に減らすことで寿命が1.3倍~1.5倍に延伸することが酵母菌、線虫からマウス、
ラット、そして、人類に最も類似したアカゲザルまでの多くの生物で全て立証されている。
その機序は、カロリスによりインスリンシグナルを遮断することで、長寿遺伝子を活性化するため
であり、100万年以上前から人類が飢餓との闘いの歴史の中で、長寿遺伝子を発現させながら生き
延びてきたことに由来している。
さらに、カロリス以外にも加齢を制御する方法が提唱され、ぶどうの皮や赤ワインなどに含まれる
ポリフェノールの一種である「レスベラトロール」を高用量摂取することにより、カロリスと同様
の長寿効果を得られる事が知られている。
さらに、健康長寿に有用な慢性炎症を抑える方法として、豊富な身体活動による微小循環の改善も
周知されている。毎日の暮らしの中に一定の身体負荷を与え、豊富な身体活動により全身の毛細血
管の血流が良くなり、微小循環が改善されることにより、全身の60兆もの細胞に必要な酸素や栄
養が行き渡ると共に、炎症の原因となる蓄積した老廃物が速やかに回収されることで慢性炎症の改
善に役立つという機序である。そこで、高齢者が無理なく出来る豊富な身体活動として、ウォーキ
ングではなく「スロージョギング法」が提唱されている。「スロージョギング法」とは、活性酸素
を多く生じやすいランニングとは違って笑顔でジョギングできるニコニコペースで良く、その走り
方のポイントは、足の指の付け根で着地する「フォアフット法」で、着地時の衝撃を足の前側と後
側とに分散できるメリットがあり、「かかと着地」と比べ、足への衝撃が1/3に低減される。ま
た、ウォーキングに比し加齢に伴って著しく萎縮する筋群である体幹から骨盤にかけての大腰筋、
大腿四頭筋、中臀筋、大臀筋などを継続して鍛錬でき、サルコペニアの予防にも有用である。さらに、
その特筆すべき利点は、ウォーキングとのきつさは変わらずにエネルギー消費量が非常に豊富で2倍近
い点でもある。
この様にスロージョギングの効果として、無理せず、また、きつくなく、カロリー消費をより多く
稼ぐことで、減量とメタボ改善などの生活習慣病の改善に有用で、認知症予防効果もあることが知
られている。さらに、解糖系の代謝を抑え、有酸素系の代謝を促進して全身の毛細血管を発達させ
血流を促進して低酸素状態を改善することで慢性炎症を防ぎ、健康長寿や癌の予防にも有用である
ことが報告されている。
私自身もスロージョギングを朝夜に約20年間に渡って継続し、カロリス法やレスベラトロール摂
取も併せて続け、熊本地震後の約1年半に及ぶ罹災診療時の朝から夜までのノンストップ診療にも
耐えることができ、この優れた有用性について実感する次第である。