震災を乗り越えて
院長エッセイ
(宇医会報より)
(序編)
宇城地区では、4月14日(木)午後9時半前のM6.5の前震、そして、
15日(金)の午前零時半頃の同様の前震があり、さらに、16日(土)未明
のM7.3の本震に加え、その後の2000回にも迫る余震に加え、さらに追
い打ちをかけるような6月からの集中豪雨には本当に困惑しましたが、これら
の七難八苦を無事に乗り越え、奇跡的に建物の損傷もなく、また、院内の医療
機器及び手術機器や各種レーザー治療器及び検査機器も無傷で正常に作動し、
平常通り継続して診療を続けられていることに心から感謝しています。
(診療・手術編)
震災直後早々に、5年前に仙台で東北大震災を経験された佐渡一成先生(東北
大学眼科臨床教授・順天堂大学卒)から電話連絡を頂き、「電気か水道のどち
らかが通じていれば、どの様な形であっても出来得る限りの範囲で診療を早々
に開始し継続することが地域医療を守るために最も大切である」という助言を
身をもって実感し、早々に玄関先に「診療中」という表示幕を貼り出し、この
言葉を座右の銘として日々診療と手術を絶ゆまず実施してきました。
4月16日(土)は当院開院20年にして初めて臨時休診体制とし、職員総出
で院内の散乱した書類等の整備を行い、月曜からの診療に備えました。
そして、4月18日(月)より朝6時から診療をお待ちになる患者様をお迎え
し、診療と小手術を早速開始し、4月26日(火)より手術室内での予定手術
も無事実施し、今日まで無事に診療と手術を継続しています。
すなわち、手術室内の白内障及び緑内障手術と硝子体手術についても4月26
日より再開致しましたが、事前に器械の作動は確認していたものの、ライカの
手術顕微鏡のフットスイッチの断線に気付かず、顕微鏡が動かない状態である
ことが手術当日になり判明しましたが、決して諦めずにすぐにライカの担当に
連絡し、同日担当者が移動中であった鹿児島のインターから高速道路を通って
当院にフットペダルを持参して駆けつけて頂き、同日の手術も無事に終了し、
それ以降も全ての手術を無事に実施出来ている事に感謝しています。
(労務管理編)
この様な震災においても、私自身は4月16日の本震の際にも就寝中でしたが、
4月14日夜の前震の経験もあり、「一昨日よりもさらに揺れが強いなあ。」
という程度の意識で、本棚等は倒れたものの、「これでまた起きていては朝か
らの診療に差し支える」と考え、出来る限り睡眠を取るようにしました。
開業当初から一貫して患者様を全身全霊で診療するという特攻精神と、日々の
朝夕の走り込みと体幹トレでの鍛錬や毎月の護摩修行による心身の錬磨によ
り、率直なところ、恐怖感や生命の危険は全く感じず、当日朝からの診療を平
常通り行う事のみに思考を巡らせました。
明け方になり、スタッフからの連絡で宇土市役所が半壊したことを知り、自院
のことも一度は覚悟しましたが、建物も医療機器も損傷無しとの報告を受け、
出来るだけ早期に診療を開始する意志で医院に駆けつけました。
そして、これまで私自身は一度も「疲れた」とか「きつい」といった認識は全
く無く、全身全霊で診療と手術、そして医院の運営を継続させて頂いています。
一方で、震災により自宅が被災して自宅の建て直しや大規模修理を余儀なくさ
れるスタッフも多く、また、震災後の長引く余震のために車中泊など慣れない
生活環境の中でも休まず医院を支えてくれた職員全員に心から感謝している次
第です。
尚、東日本大震災後の労務管理面でも、震災後の鬱や症候性の体調不良等の
発症が多く認められ、かつ、震災直後は車中泊等により充分な睡眠が取れない
状況での労務管理において、様々な精神的なケアや業務指示の際の配慮が必要
であることを識者の方から教示頂き、職員の心身のケアにも充分な配慮をしな
がら業務を続け、医院の運営も無事に推移しています。
(生活・メンタル編)
この震災による厳しい状況や外部からの震災や今後の余震の遷延等に対する様
々なマスコミや野次馬からの冷たい評論や批評さえも自分のエネルギーとして、
この地で永く診療を継続することで自分の生き方の正しさを今後も証明してい
きたいと考えています。
また、震災時には健康管理面でも多くの方々からお気遣いを頂き、本震のあっ
た4月16日以外は朝夜の走り込みや体幹トレを継続し、ウエストもかなり絞
れ、学生時代の箱根駅伝をはじめ陸上競技生活時のベスト体重をほぼ維持し、
自声も響きを増しています。また、普段より少しでも早めに就寝するように努
めながら体調管理と免疫力の向上を図り、健康で良好に推移しています。
そして、この2度に渡る震度7の激震と2000回に迫る遷延する余震、さら
に、集中豪雨による当地での水害に襲われる中で、「もし、この震災と水害を
無事に乗り越えることが出来たら、今後の折り返しの20年間は今まで支援頂
いた当地域の方々への恩返しのために全身全霊で診療と手術に精進を続けて行
こう!」と心から決意致しました。この震災時の誓願は決して忘れないように
持ち続けていきたいと思います。
今後共、熊本県眼科医会の先生方にも大変お世話になり、多くの患者様の手厚
いご高診とご加療ならびにご教示とご助言を頂くことも多いかと存じますが、
何卒宜しくご指導とご高配の程お願い申し上げます。