最近の医学部受験を経験した保護者の立場から
院長エッセイ
(宇医会報より)
近年、医学部入試は、従来にも増して難化の一途をたどり、異常な高競争率が
加速化している。
事実、2000年度の私立医学部一般入試の志願者は4万5500名であった
が、2014年度には10万人の大台を超えて、2000年度に比べ倍以上、
即ち230%もの志願者を集めるまでになった。特に最近2年間の志願者数の
伸びは著しく、2年連続で毎年何と1万人以上ずつも増加して、最近の2年間
だけで志願者が2万4千人も著増し、私立医学部の一般入試の募集定員が僅か
2、700名余に対して、志願者は37.6倍にも上ったのである。
このような志願者数の著増化は、大企業の業績悪化に伴う新卒採用枠の減少や
歯学部及び薬学部からの医学部への再受験などと共に、司法制度改革により、
従来の弁護士志望層など医家系以外の志願者も著増し、さらに、毎年1万人以
上もの志願者数増に伴う不合格者の「積み残し現象」が今後も年々累積してゆ
くものと推測される。
事実、九州地区の福岡大学医学部の例でも、長女が現役合格した5年前の時代
の志願者数1600人と比し、僅かこの数年間で志願者数が激増し、今年は
2900名を超え、1300名以上もの志願者数が急増して、競争率が約44.
4倍にもなり、僅か50名程度の繰り上げ合格を含めても3000名近い志願
者の内、僅かその上位4%のみが合格出来る極めて厳しく狭き門となってきて
いる。
また、久留米大学医学部においても同様に、5年前の志願者数1300名から
今年度は2200名以上へと1000名近く志願者数が増加し、併せて入学者
の多浪化の傾向も平均4.8浪と如実に表れている。
抜群の集中力と調整力により幸いにも一般入試で現役合格出来た長女の時代と
は状況が全く異なり、この様な厳しい状況の中で、次女の場合は医学部予備校
での浪人生活を余儀なくされた為、父親として医学部受験の重圧の渦中にいる
娘をいつも笑顔で真綿で受け止める様に努めた。また、自分自身もプロ野球選
手も修行する鹿児島にある高野山真言宗の寺で、毎月欠かさず護摩修行を続け、
岡山大学医学部客員教授などでもある大僧正大阿闍梨の下で大きな護摩の火の
すぐ目の前で般若心経や理趣経などの真言を大声で約2時間唱え続けた。護摩
修行の苦しい時にも、次女の医学部受験の苦しさを想い、耐えて乗り越えた。
また、心願成就の為にお洒落なども辛抱する年頃の次女を思い、自分自身もテ
レビも歌舞音曲も断ち、朝夜に般若心経や理趣経を毎日繰り返し聴き、読呪を
続けてきた。さらに学会出張のない休日には、県立図書館や自習室で自身も勉
強を続けた。
次女も身上である粘りと辛抱強さを発揮して、「何としても医学部に合格する」
という強い気持ちを1年間持ち続けて精進を重ね、幸い、九州の2大学の医学
部と中国地区の医科大学の計3校から正規合格を頂くことが出来た。
そして、合格発表後の進学先の相談で幾度も長時間次女と話し合う中で、目標
達成のための熱意と粘りや必死さの大切さを再認識し、さらに、目標達成と向
上のための創意工夫と緻密さの必要性を痛感した次第である。
今後は、学業成績優秀者として福岡大学医学部より表彰を頂いた長女と厳しい
医学部受験を乗り越えて同大学医学部に進む次女を心の支えとし、日々の診療
や手術と医院運営、そして、母校での客員職としての研究にも微力ながら努力
を続けて行く所存である。