潜在意識を活用した「予習法」による診療の試み
院長エッセイ
(宇医会報より)
日常の外来診療や手術において、当医師会の先輩の先生方に学び、日々小さな
創意工夫を図りながら毎日の診療に懸命に努めている。
最近実践して成果を実感している方法として、より充実した効果的な診療の実
践のために、潜在意識を活用した「予習法」による診療を試みている。即ち、
翌日の外来診療の予約をして頂いている患者さんのカルテを忙中の僅かな時間
でも事前にチェックしながら、SOAP形式で記載している前回の主訴や自覚
症状(S)と考察と治療方針(AP)の記載内容を確認し、患者さんの病状を
イメージし、前回の考察と治療計画を再インプットして診療や手術と処置を行
うように努めている。
この様にして、診察前にイメージングをし、事前の対策を立てて出来る準備を
して、それらの情報をスタッフにも事前に周知徹底して診療に臨むことで、
より円滑に安全性の高い有用な診療が出来得ると共に、患者さんの新たな疾患
や病状の変化を発見する確率も向上すると考えられる。
また、私の場合は2つの診療スペースを行き来しながら診療しており、1室で
の診療が終了して別室に移動する前に同じ室に入る次の患者さんのカルテの
(S)と(AP)を再確認し、潜在意識の中に送り込むことで、事前に診察の
準備スイッチを入れると共に、スタッフにも事前の注意事項と問診の再確認を
指示している。
また、同様に、翌日の各種の手術や網膜・緑内障の光凝固治療、また、眼瞼な
ど腫瘍の切除手術の患者さんについても、事前に病状や主訴ならびに治療方針
等に加え、患者さんの全身状態と当科的注意点や性格等の特徴も再度把握して
全員に周知徹底させ、治療方針を再認識しておくことで、より安全かつ円滑に
有用性の高い手術治療が行えるものと思料している。
そして、この方法を活用しながら外来診療を行っているうちに、記憶が遡って
想い出したことは、小学生時代の春休みや夏休みなどでの教科書の「先取り学
習」によって、新学期の授業を迎える時のワクワク感と授業で習った際の既視
感(deja-vu)の再現である。事前に患者さんの病状をイメージしながら今日
の診察のポイントとテーマを把握し、今日行うべき診療と手術により集中でき
るワクワク感と充実感は共に日々の診療の中では貴重な幸福感にも繋がってい
る。
また、診療時に患者さんに笑顔でご挨拶しお辞儀をする際にも、このdeja-vu
によって非常に親密感が増し、患者さんの診療や治療により集中できる実感を
持てるようになった。
因みに、医療安全管理の権威である順天堂大学医学部・病院管理学の小林弘幸
教授によると、医療の安全管理を考える際に、医療事故が起こり易い条件とし
て、①余裕が無い時②自信が無い時③予想外の事が起きた時④体調や心身の具
合が悪い場合⑤環境が悪い場合を挙げ、これらが原因となって「不安」の二文
字が脳裏によぎり、心身のバランスが崩れて生じやすくなる由を指摘している。
この様な経緯から、平素より心身の状態を整え、体調管理に努めながら、さら
に「予習法」等により、今日の診療や手術のための出来る限りの準備と対応に
努めながら、職員にも周知徹底させ、患者さんの予想外の急変や偶発症の発症
の際の対応についても、平素よりスタッフ全員で分担して迅速に対処出来るよ
う繰り返し講習や訓練を行うように心掛けている。
昨今の厳しい医療情勢の中でも、患者さんに笑顔と真心で接遇し、より有用で
安全な診療と手術を心掛け、少しでも眼と心を癒す医療を提供できる様これか
らも微力ながら日々工夫と努力を続けていきたいと思っている。