むらかみ眼科クリニック MURAKAMI EYE CLINIC

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コロナ禍で激増がさらに加速する小児の近視の現状について

近年の生活環境の変化に伴い世界的に小児の近視人口の急増が加速化しています。今後も2050年

には近視人口が世界人口の約半数以上に、強度近視人口は世界人口の約1割にも達すると推定され

ており、殊に我が国を含む東アジア諸国では若年者の近視の有病率がこの半世紀で9割近くにまで

急増し、重症化も進んでいます。しかも、コロナ禍での屋外活動の減少とデジタルデバイスの視聴

時間の著増により推定をさらに上回るスピードでの近視の激増が憂慮すべき問題となっているに

もかかわらず、一般には、「近視」という眼病があまりにも身近過ぎて「病気」という捉え方はさ

れずに、「メガネをかければ大丈夫」などと軽視されがちです。しかし、近視はたとえ軽度でも、

将来的に緑内障や網膜剥離、黄斑変性など、失明などの視覚障害にも繋がる重篤な眼病のリスク因

子であり、近視の度数が悪化すれば加速度的にそのリスクも増加することが明らかになっています。

この様な経緯を踏まえ、激増する小児の近視の現状と対策について日本学校保健学会の機関誌と小

児保健雑誌に総説を発表しましたので、その要旨の一部をご参考までにご報告致します。

近視の発症の要因

 近視の発症には、ご周知の通り、遺伝的要因と環境的要因の両方が関与します。遺伝的要因では、

先祖や両親から受け継いだ遺伝子が関与し、アジア人に多く、両親だけでなくいずれかが近視でも

度が強い程近視になり易いことが分かっています。一方、環境的要因としては、屋外活動の減少や

長時間スマホやゲームなど近方を見続ける時間の増加などがリスク因子とされており、両方の要因

が共に深く複雑に関与しています。しかも、近視は一度発症すると低年齢であるほど年間進行量が

大きい特徴があり、かつ、小学入学時での近視の発症率は19.2%と既にかなり高い為、成長期に

は高率に強度近視にまで進むことが危惧されています。

近視を防ぎ抑えるために推奨すべき生活習慣

(1)長時間近方を見続ける作業(近業)での距離と時間への注意

小児期の近視には以前より遺伝の影響(両親が近視であれば、両親が近視でない人の7~8倍の頻

度が高くなる)があるといわれていますが、遺伝だけではなく環境的因子とも強く関連し、「30㎝

以内に近づいて近業をすること」、また、「30分以上連続して近業を続けること」で眼の調節緊張

の状態が持続して眼球の前後径(眼軸)が少しずつ伸長して不可逆性の近視となるリスクがそれ

ぞれ2.5倍と1.5倍も増加します。特に、スマホやゲーム機器などの使用時の距離は平均20セン

チと極端に短くなる為、近視の発症と進行も早めることが分かっています。

(2)屋外活動時間を増やす工夫と実践の勧め

もう1つの最重要な原因として、「屋外活動時間の減少」があります。すなわち、日光に含まれる

「バイオレットライト」には近視の抑制効果があり、外遊びの時間が少ない小児は近視になり易い

ことが明らかになっており、近視の予防と進行抑制のための最も効果的な成果を得るために通学や

体育の時間も含めて1日120分以上の屋外活動(照度1000~3000ルクス程度)を確保することが

推奨されています。屋外活動による近視の予防効果は、特に年齢の低い保育園や小学校低学年の小

児ほど高い為、紫外線対策と熱中症の防止など安全確保の上で直射日光を避けても充分な照度

(1000~3000ルクス)を確保できる建物の陰や庇(ひさし)のあるスペースや木陰などでの屋外活

動が推奨されています。

しかしながら、ベネッセ社の調査でも1日の屋外活動時間は小学生が40分、中学生が19分、高校

生ではわずか10分に過ぎず、毎日のスマホ・ゲームとTV等で信じ難い長時間の近見凝視を続ける小児や成人近視に合併した緑内障や網膜裂孔・剥離、黄斑変性等の診療、さらに、近視のレーシ

ック手術後の多くの症例で50歳代での白内障手術が高率に必要となる等、近視に関わる多くの問

題に日々対峙している次第です。