開業26年目の著書と論文の同時執筆の経験
院長エッセイ
緑内障は、初中期には欠損視野が両眼でカバーされる為、日本緑内障学会の調査でも、自身が緑内
障であると気付いていないケースが90%にも上り、事実、全国で約500万人もの緑内障の推定患者
に対して眼科で治療を受けている人は僅か21%に過ぎず、末期になってから視力が障される為、中高
年者の視覚障害の首座を占め続けていることはご周知の通りです。
しかも、我が国の緑内障の病型分類では、約7割以上が正常眼圧緑内障であり、治療で眼圧を下降
させてもさらに進行を続ける症例も少なくなく、眼圧以外の要因として、酸化ストレスや血流障害、
さらに、緑内障体質(強めの近視、低血圧、冷え性、頭痛症、DM、家族歴)などの危険因子が知
られています。
この様な経緯から、今回著書のテーマを「緑内障」に絞り、前回の出版以降で得られた新知見も
含め、緑内障について解り易く説明し、新型点眼薬の知識や選択的レーザー線維柱帯形成術(SL
T)や低侵襲緑内障手術(MIGS)等の新しい治療法の解説のみでなく、緑内障の原因となる酸化ス
トレスや血流障害、糖化を抑え、緑内障体質を補う食事と栄養療法、眼圧を下げる運動療法や
夜間高眼圧を防ぐ就寝法、東洋医学による緑内障の経絡治療、さらに、酸化ストレスを消去する「水
素ガス温熱眼科療法R」等についても解り易く丁寧に解説した著書を執筆するに至りました。
当初、参考文献となる成書や資料を繰り返し幾度も読み返しながら、これらの知識や情報を整理し
て10章のコンテンツに分け、各章毎に自身のオリジナルの解説文章の作成と校正作業を少しず
つ地道に続け、再校正も重ねました。
また、執筆や校正が集中して行える休日の時間活用術も、集中ゾーンに入るまでの「助走」を短く
する為に、前夜に資料を準備して朝の「スタバ」の特等席や居心地の良い喫茶店を見つけ利用するな
ど、作業の快適さにも配慮すると共に、出版先も前回の様な下請け任せの新聞社の出版部ではな
く、業界で長年経験豊富な地元出版社の社長やコーディネーターの方とも直に連携しながら編集も
進め、事務長以下職員による録音声の文章化のサポートも受けながら「自分との孤独な闘い」には
持ち込まない様に工夫しました。
また、執筆や校正の時期はアウトプットの作業に偏ってしまうため、毎日の起床後の朝の時間帯に
生涯教育のCDを流して聴覚から知識のインプットにも努めました。
一方、母校の客員職としての研究面では、世界初となるドライアイの大規模調査研究の計画立案と
指導及び解析結果を下に論文の執筆にあたり、著書の場合と同様に先行研究の各論文を繰り返し幾
度も精読していく中で、今回の研究でのオリジナリティーを見い出すことが出来ました。その成果
として今年の日本角膜学会総会での講演が特別賞にノミネートされ、論文も日本眼科学会の英文雑
誌JJOに投稿することが出来ました。
因みに、他科の先生から「医師が著書を出しても、患者がなかなか読んでくれない」との冷評も時
に拝聴しますが、健康雑誌の編集者からの話でも眼とダイエット関する記事が好んで読まれている
様で、眼病の特集の中でも特に「緑内障」が繰り返し取り上げられることが多い様です。
これからも、緑内障とは気付かずに眼の不調を放置している方が、一人でも多く早期発見と治療を
開始でき、また、視覚障害に陥る不安で日々悩んでいる緑内障治療中の患者さんにとっても一筋の
明るい希望の光となることを願い、日々の診療や手術と共に著書の執筆を続けていきたいと思って
います。