開業医における実践的な学習法の試み
院長エッセイ
(宇医会報より)
開業医生活も早や18年が過ぎてゆく中で、日々の外来診療と手術に加え、保
険請求や労務の運営管理、そして、学術研究や執筆等の合間を縫いながら、よ
り有用かつ実践的な臨床の学習法について模索し、工夫するように努めている。
最近試みている新たな実用的な勉強法として、学術集会や講演会の日程とその
演題に合わせて勉強のテーマと期間を決めて文献資料を集め、集中して反復し
た勉強をするように心掛けている。
今回は糖尿病網膜症及び糖尿病黄斑症の診療についての学術講演会が開催され
る3月中旬に合わせて、2月上旬から糖尿病網膜症・黄斑症をテーマとして、
これまで使用してきた成書や教育講座のテキスト等を持参して休日は図書館に
出かけ、朝から夕刻まで成書や講演テキストを繰り返し読み込む学習に努め
てみた。このような教科書の読み込みについては、ただ漫然と長時間読書する
のではなく、50分間集中して5分間机上俯せ休息を繰り返すインターバル法
の方がより集中でき、頭脳や眼の疲れも少なく、有用であると考えられた。
糖尿病網膜症・黄斑症については、近年は病期分類も数多くあり、かつ、治療
法も一層多彩となり、通常の薬物療法の他に網膜光凝固治療法の進歩や硝子体
・結膜囊への薬物注入治療の開発、さらに、27ゲージからの極小切開による硝
子体手術法も開発され進歩を続けている。
このように、糖尿病の眼合併症の治療目標が、過去の「失明の回避」から現在は
「視力と生活の質の向上(QOV及びQOL)」を目指す流れとなり、網膜光凝固
術や薬物注入療法、そして硝子体手術の早期の手術適応や手術手技、さらに合
併症のリスクの回避策などを学ぶことに重点を置いて勉強した。
そして、成書やテキストを読んでも解りにくい点は、眼科医会の教育用DVD
も購入して過去の講演集から順に再度聴き直して理解を深め、さらにCDにも
録音して起床後や就寝前に繰り返し耳からも知識を反復して修得するよう努め
てみた。
こうして、過去から現在までの糖尿病眼科診療について学んでいく過程で、
糖尿病網膜症・黄斑症に対する根幹となる共通した治療の流れがよく解る様に
なってきた。
そして、最近の治療法の進歩についても、その根幹の治療の壁となっていた問題
点をブレイクスルーした新しい技術の有用性がより理解できるようになった。
また、かつての名教授と言われた先生方の講演の内容の素晴らしさのみならず、
その話し方や口調も非常に勉強となり、CDを聴きながら一緒に声に出して楽
しく知識を修得することが出来た。
また、数多くの著明な著者の考え方を繰り返し読んでいく中で、それらに共通
する普遍性のある治療の理論も浮き彫りとなって把握することが出来た。
また、同様に昨年11月末にも保険診療の講習セミナーの開催に合わせて2ヶ
月前から過去6年間の熊医会報の解説資料と日本眼科医会の保険審査員会議議
事録の資料を集め、保険診療についての知識を勉強していく中で、その繰り返
し指摘されている重要なポイントがより明確に浮き彫りになり把握できるよう
になってきた。そして、当院の保険診療で留意すべき事項をノートにまとめ上
げて、職員にも周知させ全員で実践するよう努めている次第である。
こうして、当日の講演を拝聴しながら、これまで成書とDVDやCD等の様々
な手法で繰り返しインプットして得た知識を、演者の先生への質問や懇親会で
の追加質問の際にアウトプットしながら質問させて頂くことで、知識のより密
な修得と整理、そしてブラッシュアップが出来ることが実感できた。
平素、日々の診療や手術の中で多くの患者さんの病態や病期を瞬時に判断し、
治療法の適応と選択を正しく決断していく為に、この様に学会や講演会のテー
マに沿って目標と期間を定め、集中して反復学習する方法の有用性を生かして
これからも有用な勉強を続け、厳しい医療情勢の中でも患者様に笑顔でより充
実した医療を実践できる様微力ながら努力を続けて行きたいと考えている。