「水素ガス温熱眼科療法」Ⓡ による緑内障療養法
院長エッセイ
(宇医会報より)
すでにご周知の通り、糖尿病や悪性腫瘍、脳血管疾患や虚血性心疾患などの中高年者に多い全身疾
患だけでなく、緑内障、白内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性などの眼疾患にも、活性酸素(酸化
ストレス)が深く関わっていることが明らかになっています。
呼吸によって酸素が細胞内のミトコンドリアに取り込まれてエネルギーを産生する際の副産物と
して消費される酸素の2~3%が活性酸素として生成されます。
活性酸素はきわめて高い酸化力を持ち、体内の細胞を酸化させることで上述した疾患以外にも様々
な疾患の原因となることが知られており、多くの眼疾患を含めた全身の全ての病気の90%以上に
活性酸素が関与していることが明らかになっています。
一方で、活性酸素から身を護る様々な「抗酸化酵素」を体内に有するものの、40歳を過ぎた頃か
ら年齢と共に「抗酸化酵素」を生成する能力が急激に低下することが知られています。この様な経
緯から、過剰に産生された活性酸素を消去する有効な手段として、近年では「水素ガス」が多くの
医学分野に応用され、多くの疾患の治療だけでなく、アンチエイジング医学やスポーツ医学など多
方面の分野でも研究が進められ、数多くの優れた有用性が報告されています。
2007年に「ネイチャー・メディスン」に掲載された日本医科大学の太田成男教授の論文を始め
とする数多くの権威ある研究論文による報告でも、水素の有用性とその特徴として、最も悪玉の活
酸素(ヒドロキシラジカル)を選択的に無害化し、さらに、ミトコンドリアを活性化させることで、
眼を含む全身の疾患(認知症、がん、心肺停止、生活習慣病、パーキンソン病、外傷)など極めて広
い分野でのその有用性を発揮し、しかも副作用も無く、医薬品よりもより顕著な効果も認められる
ことなどが詳細に明記され報告されています。
また、これまで救命蘇生治時の大きな問題点として、途絶した血流と酸素欠乏の状態から救急蘇生
時に臓器への急激な血流の再環流と酸素供給が再開されることにより発生する高濃度の活性酸素
が脳を含めた全身に強いダメージを与え、意識回復が出来なくなるか、回復しても重篤な神経学的
後遺症が残ることが問題となっていました。しかも、後遺症を軽減する唯一の方法であった「体温
管理療法」も、その有用性の評価により必ずしも決定的な治療ではないことが指摘されていました。
しかしながら、最近の救命蘇生治療での朗報のトピックスとして、慶応大学での関連の多施設共同
臨床試験において、救急蘇生時に水素ガス吸入療法を併用することで、救命率が対象群の21%に
対し水素ガス使用群では46%に著増すること共に、神経学的な後遺障害の残存した症例が対象群
の39%に対して実に15%と著明に減少したことが報告されています。
眼科領域においても、緑内障が我が国の失明率の首座を占めており、近年のネット社会の影響など
での学童期からの近視の激増により成人期までに高度近視化する症例も著増しているために、緑
内障を患う症例もさらに増え続けることが眼科学会でも危惧されています。しかも、我が国では緑
内障患者の7割以上もが「正常眼圧緑内障」であることが明らかになっており、眼圧が正常範囲内
にもかかわらず視神経が障害されることが知られています。その主な原因として指摘されているの
が視神経や網膜の血流障害や酸化ストレスの影響に因ることが明らかになっています。そこで、視
神経や網膜の血流を促進させ、酸化ストレスを消去する方法として、当院では高濃度水素ガス吸入
療法と共に、頸部の星状神経節へのスーパーライザーPXを使用した近赤外線照射による温熱治療
法を併用する緑内障の療養法を国内で初めて開発し、「水素ガス温熱眼科療法」Ⓡとして特許庁で
の認可登録を取得し、すでに多くの患者様に実施して歓ばれている次第です。
これからも、「水素ガス温熱眼科療法」Ⓡを含めた水素ガス吸入療法の眼科領域への応用について
今後の自身のライフワークとして臨床と共に研究を進めていきたいと考えています。