『開業医生活の中で感じる「予感」』
院長エッセイ
平成8年の夏に小院を開院致しましてから、早4年半が過ぎようとしています。これまで、当地域の諸先生方のご指導とご支援を賜り、何とか日々無事に診察を続けております。
そんな新規開業医5年生の生活の中でも、病状が気になる患者さんのことが、自分の潜在意識の中に日々存在し、微妙な予感が当たるのを時々経験するようになりました。
例えば、ある重症のぶどう膜炎の患者さんを大学病院に紹介させて頂いたのですが、約1ケ月たった頃その方の病状がどうしても気になり、ご由宅に連絡したところ、昨日退院して自宅に戻って来たのだと電話口で嬉しそうに話してくれたことです。また、別の気難しい患者さんのことを、前夜にふと思い出していると、その方が翌日の診察に数ケ月ぶりに来院されるといった様なことも時折り経験するようになりました。
このような予感や微妙な感覚は、開業医にとって知識の修得と共に非常に大切な生命線であり、体調を整え、平常心で診察に精進してゆくことで、この感覚を今後も大切に持ち続けてゆきたいと思っています。
そういえば、一昔前、私がまだ小学生の頃、山陰の小さな漁港の町で内科の開業医をやっている父が、「少しおかしいな」という微妙な予感のもとに、丁寧な触診とⅩ線だけで何例もの早期胃癌を発見したと私に話してくれた事が想い出されます。また、小児科と産婦人科医の母から「ムンテラ」という言葉を聞いたのもその頃でした。
そして、「少しずつ必ず良くなると患者に笑顔で説明すると本当に良くなっていくものよ。」と何か確信したような眼差しで私に語ってくれたことを想い出します。
その時は、子供心では信じられず、反発して言い返していた自分ですが、三十余年を経て、開業医を経験しながら少しだけ解りかけてきたこの頃です。
これからも、このように奥深く素晴らしい開業医の仕事を天職として、患者さんを大切に、一日一日を無心に診療できるよう心掛け努めて参る所存であります。