患者負担増の制度改悪を許すな
院長エッセイ
このたびの健康保険制度の改悪という暴挙に対し、熊本県保険医協会会長・上塚高弘先生のご指導を賜り、熊本日日新聞の読者の広場の「主張・提言」の欄に以下の文章を投稿しましたので、ご報告致します。
「熊本日日新聞 平成14年9月23日朝刊掲載」
国民の負担増を中心とする健康保険制度の改定法案が、無修正のまま与党3党だけの強行採決で、可決された。高齢者は、10月から外来での1割(一定所得以上は2割)負担が必要になり、また、対象年齢も今後は75歳まで段階的に引き上げられることになった。さらに、月毎の上限の額も大幅に引き上げられ、しかも、上限を超えた額は、患者さんの立て替え払いとなり、翌月に役場の窓口で申請後、2ケ月後にようやく払い戻しになるという償還払い制度になった。同時に、外来での定額制(現在850円)も撤廃となった。このため、高齢者は、医療費をいくら用意していけばよいか分からず、費用の手出しを恐れて、受診を手控え、その結果病状を悪化させる最悪のケースも多く出てくるものと懸念される。
眼科医療においても、放置すれば確実に視覚障害につながる糖尿病性網膜症や緑内障などの患者さんが、この改定以降、診療を中断し、早期治療ができず、手遅れ失明となるような悲劇も想定され、長期的には、かえって医療費の増大を招くことも憂慮される。さらに、償還払いの事務手続きも一人暮しや寝たきり、痴呆等の方には、現実的に無理があり、払い放しのまま、泣き寝入りになることも多々予想される。
小泉首相は「これからは、負担は軽く、給付は重くとはいかない。」との発言を繰り返しているが、国際的にみても、先進7ケ国(G7)の中で、社会保障費を減らしているのは日本だけであり、事実、老人医療費は、過去15年間に10%も削減された。さらに、来年以降も患者負担増の改悪が予定されている。
医療費を守る財源は、無駄で異常に多い公共事業費を削減したり、不当に高い薬価を適正化する等の手段で確保できる。これ以上患者負担を増やし、高齢者など弱者の立場を軽視し、福祉を切り捨てる政治を許すべきではない。