「体幹の「インナーマッスル・スロトレ法」
院長エッセイ
(宇医会報より)
DT作業や携帯メール等で眼を著しく酷使す る現代社会において、頑固な眼精疲労や眼窩神経痛など の症状を訴える症例が、周知の通り著増している。
このような症例の特徴として、首と肩が前出した前首・ 前肩の猫背姿勢で、下腹だけポコッと突出した「C字型」 体型を合併したケースが、その大半に認められている。
このような姿勢の患者さんが著増した原因として、第一 に、VDTや携帯メールのような前屈みの作業が増え、 肩甲骨周囲の筋肉を大きく動かす生活動作が極端に減っ ていることが考えられる。 さらに、第二の原因として、 体幹のインナーマッスル(深部筋)である大腰筋の緩み と衰えが指摘されている。
大腰筋とは、ご存知の通り、 背骨と大腿骨と骨盤とを繋ぐ筋肉であり、その機能とし て、
①背骨を内側に引き寄せて自然なS字形の姿勢を保持する
②骨盤を支持して骨盤の前傾を保ち、腹部や腰部 と臀部の筋肉を働かせて引き上げる
③股関節を屈曲させ て大腿を引き上げるなど3つの大きな機能を持っている。
そして、この大腰筋が弛んでしまうと骨盤が後傾して内 臓が下垂し、下腹がポッコリ出て、猫背気味になり、し かも、そこに内臓脂肪が溜まって、メタボリック症候群 に陥り易くなることも指摘されている。
このような患者さんに学びながら、私自身も眼科の外来 診療や手術等で、前屈みになりやすい職業環境にあるた め、朝夕のジョギングに加え、専門のトレーナーを付け て約1時間の体幹筋のトレーニングを毎週継続するよう にしている。
正しい姿勢を保つために、肩甲骨の可動性に関連する僧 帽筋や広背筋、そして、体幹深部の大腰筋、また、大胸 筋や腹筋、大腿四頭筋等のトレーニングを、比較的軽い 重量負荷で行っている。
さらに、体温を上げて脂肪分解を促進すると共にトレー ニング効果を上げ、疲労回復も早める12種類のアミノ 酸をトレーニングの前後にたっぷり摂取するようにして いる。
そして、深いゆっくりとした呼吸と共に軽い負荷による ゆっくり筋トレ(スロトレ)を行っている。 この「スロトレ法」とは、東京大学院の石井直方教授が 提唱している方法で、比較的軽い重量負荷で、動きを止 めずに(ノンロック)、ゆっくりとした筋トレを続ける ことで、筋肉中の乳酸などの疲労物質が著明に蓄積しや すくなり、軽い負荷にも拘わらず、成長ホルモンの分泌 と脂肪燃焼を促進することが、研究でも明らかになって いる。
さらに、筋トレと有酸素運動の順番においても、先に筋 トレを行うことにより、その後の有酸素運動での脂肪燃 焼効率が1・5倍にも増加するという新知見を得て、実 践している。
これからも、患者さんと共に歩み、眼と体のアンチエイ ジングのための正しい生活習慣についても、今冬に上梓 予定の著書の中でも啓発しながら、開業医としての仕事 の充実に努めて行きたいと思っている。 (村上茂樹)