「医療における笑顔の活用」
院長エッセイ
(宇医会報より)
笑いや笑顔の効用として、既に周知のとおり、食後の血糖上昇やNK細胞活性の低下を抑えるのに有用であることが報告されている。「笑いと遺伝子」の研究でも著名な筑波大学名誉教授の村上和雄博士によれば、人間の遺伝子は、普段3%程度しか働いておらず、他のほとんどが眠った状態にあるとのことである。これらの眠っている遺伝子にプラスのスイッチを入れて活性化させるコツは、「笑う」、「感動する」、「他の為に役立っている」、「褒められて認められる」などが有用であるとのことである。 また、人間には、「ミラー細胞」といって、無意識の内に相手の表情に応じて相手が笑えば自分も笑い、相手が怖い顔や怒った顔をすれば、同様な評定をするというように、相手の表情を無意識の内に鏡のように映しだして指令する細胞が古い脳の中で働いていることが判っている。 一方、最近の研究では、意識して笑顔を作ることで、表情筋が刺激されることにより、気分を明るくし、高揚させる脳内ホルモンが分泌されることも報告されている。このような笑顔の効用を医療にも活用するため、私どもも毎朝始業前に職員と一緒に笑顔の練習を行なっている。 最近の全国調査でも、年齢を重ねると共に笑顔でいる時間が減少していくことが報告されており、特に、男性の場合は女性に比べて笑顔が少なくなっていることも明らかになっている。すでに、デパート、金融機関等はもとより、鉄道会社やファミレス、ファストフード店など、多くの企業で笑顔の練習を取り入れており、始業前に笑顔を撮影して、社員の笑顔度を評価する機器(スマイル・スキャン)も、これらのサービス業などの企業を中心に急速に導入され始めている。さらに、心からの笑顔を作れるようにするために、自分なりに意識していることは、①良質の睡眠をとるよう日々努める②スタッフと共に安全確実な診療を行えるよう院内のコミュニケーションやスタッフ教育や工夫と時刻集を続けてゆく③診療への集中力を損なうようなギャンブルや株などには手を出さない④心身の平静を保つバッハなどの音楽を聞く⑤心身の健康の維持のため、朝夕の適度のジョギングや体幹のインナーマッスルなどの適度の運動を継続するなどにより、心身の体調の維持と意識の向上に努め、より健やかで爽やかな笑顔でスタッフと共に診療を続けられるよう図っている。 厳しい医療情勢が続く昨今ではあるが、医療現場でも笑顔の効用を上手に活用しながら、患者さんやスタッフとの良いコミュニケーションに努め、より充実した診療と手術治療にこれからも努めていきたいと思う。