開業医人生の中で感じる「予感と発想」
院長エッセイ
(宇医会報より)
村上茂樹開業医人生も、早や16年目を迎えたが、先輩の先生方に比べれば、まだ若僧である。そんな若輩の私でも、病状が気になる患者さんの事が自分の潜在意識の中に日々存在して微妙な予感が当たるのを以前からよく経験している次第である。ある日、大学病院に紹介した患者さんの結果が気になっているとその当日に来院して下さったり、前夜のジョギングの中でふと浮かんだ手術患者さんが翌日に来院されるといった具合である。例えるのも僭越ではあるが、当地出身で”打撃の神様”と讃えられた元巨人軍・川上哲治氏がよく経験した「好調時にボールが止まって見える!」という感覚や桑田真澄氏がPL学園時代の夏の甲子園での無死満塁のピンチに小フライをダイブキャッチして三重殺を成立させた時の「ゾクゾクする予感」などもこれに通じるものが有るのではないかと思う。このような、予感や微妙かつ繊細な感覚は開業医にとって知識・技術の修得と共に非常に大切な生命線であり、体調を整え平常心で診療に日々精進を続けていくことで、この感覚を今後も大切に持ち続けていきたいと考えている。そういえば、まだ私が小学生らも「少しおかしいな」という微妙な予感のもとに重病の兆候を察知した話を子供心ながらの時分に両親かに聴いていたことを思い出す。また、「ムンテラ」という言葉を聞いたのもその頃である。開業医となった現在でも非常に大切な治療であり、日々の診療の中で気付いた「ムンテラ」の新しい手法のヒントや思い付いた診療手技のアイデアを録音マイクに音声入力しておき、それをスタッフが文章化して”診療・手術向上日誌”として新手法や発想を積み上げていく試みも楽しく続けている。また、学会や講習会でも、出席だけして聴き放しにせず、テキストやノートを帰途の飛行機や新幹線の中で繰り返し読み直して診療に役立つ知識や技術の「引き出し」を増やすよう努めている。昨今の厳しい医療情勢においても、このように奥深く素晴らしい開業医の仕事の中で患者さんを大切に、少しでもより良い日々の診療が出来るよう精進と工夫を心掛け努めていきたいと考えている。