むらかみ眼科クリニック MURAKAMI EYE CLINIC

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Cataract 白内障

08.「多焦点眼内レンズ」をめぐる数多くの問題点

「選定療養」としての高額な多焦点眼内レンズの費用の内訳と金額の暗闇

多焦点眼内レンズの中には

  • (A) 一部のみ保険が適用される「選定療養」 に該当する高額な多焦点眼内レンズ
  • (B) 健康保険を全く使用しない「自由診療」での非常に高額な全額自費の負担による多焦点眼内レンズ
  • (C) さらに超高額な全額自費の「自由診療」でのレーザー を使用した部分白内障手術による多焦点眼内レンズ

に分けられます。
まず(A)の「選定療養」についてですが、厚生労働省の定める「選定療養」に認定されているものについては、保険適用分以外の追加費用が自費負担分ということになります。つまり、白内障の手術自体については単焦点眼内レンズと同じく保険が適用されますが、日本眼科学会の指針で決められた規約として、使用する多焦点眼内レンズと通常の保険適用の主な眼内レンズとの差額の実費代金、および手術前後の所定の検査代金、さらに医療従事者による手術の説明手数料などが自費負担となります。
前章でも述べたように「選定療養」とは保険診療と併せて「保険外併用療養費」として自費負担することで受けられる医療サービスです。 この「選定療養」における自費負担分に当たる「保険外併用療養費」は、 健康保険法の一部として「実費」としてのみ認められており、眼内レンズの差額などで利益を上げることは禁じられています。厚労省が薬事承認した多焦点眼内レンズについて、日本眼科学会の指針により別図のように「多焦点眼内レンズ」に係る「選定療養」の運用規約が定められ、その遵守が眼科施設に求められています。この規約において「保険外併用療養費」として患者さんから徴収する料金も規定されており、まず、①多焦点眼内レンズ(製品毎)の実費(購入価格)から通常の保険適用の主な眼内レンズの実費(購入価格)との差額と、②多焦点眼内レンズでの手術の前後に必要な検査の費用 (術前後の計2回で合計6240円) に加え、さらに、③手術前の患者さんへの手術に関わる説明手数料として、看護師や視能訓練士などの医療従事者の時給額の0.5〜1時間分 (一般的に1000円〜2000円程度)を目安に加算することが定められています。
しかし、昭和大学眼科兼任講師の平松類博士は、白内障手術に関する著書 『その白内障手術、待った!』の中で、「多焦点眼内レンズに関わる手術には闇の部分がある」とはっきりと指摘されています。どういうことでしょうか?日本眼科学会による 「選定療養」の運用規約の指針 に従って、各都道府県の地方厚生 (支)局 (熊本県では 九州厚生局熊本事務所)長宛てに前述の多焦点眼内レンズ (製品ごと)の購入価格と通常の保険診療での白内障手術で使用している主な眼内レンズの購入価格を示す資料の添付が義務付けられており、「保険外併用療養費」として各都道府県の厚生局のホームぺージに公示されています。例えば熊本県の場合には、インターネットで「保険外併用療養費 熊本県」と検索すると、県内の各眼科の多焦点眼内レンズの届け出価格が公示されています (なお、眼科施設によっては届け出ているレンズの製品が番号のみで記載されている例もあり、もし不明な点があれば眼科施設での多焦点レンズの製品名での保険外費用について確認されることが賢明です)。
その公示を見ると、同じ多焦点眼内レンズの製品でも眼科施設によって、届出価格の金額が大きく異なることが分かります。
例えば、現在使われている多焦点眼内レンズとして、日本アルコン社の「クラレオン・パンオプティクス」(Clareon Pan Optix)というレンズでは、乱視なしの場合、金額の低いところは17万500円ですが、高いところは39万円です。乱視入りの場合では低いところは19万2500円ですが、高いところは39万5000円となっており、事実約20万2500円もの徴収価格の金額差があります。
また、ジョンソン&ジョンソン社の連続焦点レンズ「シナジー」では、乱視なしで 14万円〜38万円、乱視入りが 16万円〜42万円となっており、実に2倍以上の26万円もの徴収価格の金額差があるのが現状です。

このように同じ多焦点レンズの製品でも、眼科施設によって大きな価格差が生じる理由は何でしょうか?業界内部の関係者からの情報では、眼科の中には納入の際に眼内レンズメーカーなどから直接ではなく、院長の夫人や親族などが経営するメディカル・サービス法人 (MS法人)などの「ファミリー企業」を経由して、高額な納入価格で購入するからだといいます。このような方法で、利益をMS法人などの「ファミリー企業」 に受け取らせた上で、高額な納入価格の伝票を添付して、高額な「保険外併用療養費」の届出申請を厚生局に提出している眼科施設があることが指摘されています。そして、患者さん側には高額な保険外併用医療費として請求するのが、「闇」の手法の一つであると指摘されています。 もう一つの問題は、③の「説明手数料」についての「闇」です。眼科医療の現場では診療効率面から、一般的には医師は少しの時間だけ説明をして、その他の大半の説明は医療従事者である看護師や視能訓練士などが約 30〜40分程度をかけて両眼の手術についての説明を行ないます。そこで、説明手数料はこれらの医療従事者の 0.5〜1時間分の時給が換算される根拠になっています。そのため、常識的には1000円〜2000円程度が相当と考えられています。しかし、現実には、5000円から2万円前後の請求も多く、中には5〜10万円以上も加算する施設も出てきています。しかも、両眼の手術時にはたった1度の術前説明なのに、合計2度の説明手数料が加算されて患者さんに請求されている眼科施設もあると聞きます。 さらに、一方で患者さん側にしてみれば、「高ければ高いほど良い眼内レンズで良い白内障手術が受けられる」などと思い違いをする方も少なくないのです。また、患者さんの家族の心理としても、大切な親への恩返しの意 味で、「少しでも高額な眼内レンズや手術を受けさせたい」と願い、法外な金額でも支払ってしまうケースも少なくないのが実情です。 そして、このような 「価格の闇」の経緯と患者さん側の心理などから、残念ながら 「多焦点眼内レンズは儲かるから」と、多焦点眼内レンズでの手術をしつこく勧めたり、巧みに誘導したりする眼科施設や医師もいると聞きます。
しかも、この多焦点眼内レンズには、長所ばかりでは無く後述するコントラスト視力の低下や不快光視現象などの副症状による短所も多くあり、日本白内障屈折矯正手術学会監事の市川一夫博士も、ご自身の著書 『白内障手術』の中で、「多焦点眼内レンズの長所しか言わない医師や、とにかく高額なレンズをしつこく勧めてくる医師や眼科は避け、他をあたった方が良い」と平松類博士と同様に明言しておられます。
さらに、患者さん側の注意点として、もし選定療養や自由診療による高額な多焦点眼内レンズによる白内障手術を実施後、不調により眼内レンズを摘出し、単焦点眼内レンズへの挿入手術を行なう場合もあることを想定していただきたいのです。もしそのような事態が起きた場合、支払った多焦点眼内レンズの費用は一切戻ってこず、かつ、摘出手術で単焦点眼内レンズに入れ替える手術も、健康保険扱いは違反行為となるため、すべて自費となります。しかも、多焦点眼内レンズの場合、他の眼病を有する数多くの患者さんが手術適応外となるだけではありません。慶應義塾大学医学部眼科の根岸一乃教授らによる日本眼科学会の調査報告でも、特に他の眼病の合併症が無い場合でも、手術前に術後の多焦点眼内レンズでの不調を生じうる症例を見 つけ出すことは困難であり、「実際に多焦点眼内レンズの手術をしてみなければ、不満例の予測がつかない」という現状が報告されているのです。このため、各眼科施設で多焦点眼内レンズでの手術を受ける場合には、手術や眼内レンズの自費負担分に加えて、仮に眼内レンズを入れ替える事態が生じた場合の自費負担の費用も確認しておくことが必要です。

「自由診療」としての超高額な薬事未承認の多焦点眼内レンズの金額とそのリスク

全ての費用が自己負担となる「自由診療」では、使用されるレンズは厚労省の認可を受けていない薬事未承認の多焦点眼内レンズです。もちろん保険も適用されず、厚労省が承認する「選定療養」の認定もないため、眼内レンズの費用だけではなく術前の検査から手術まで全額をすべて自費で支払わなければなりません。そのため手術にかかる費用は非常に高額となり、片眼で総額50万円〜100万円以上、両眼では100万〜200円以上にもなるケースが多くなっています。
このように高額な自由診療での多焦点眼内レンズの手術を行なう眼科施設の中には、非常に高額な多焦点眼内レンズを無理やり勧めたり、眼内レンズの長所しか言わず「〇〇さんにぴったりのドイツ製やベルギー製の舶来レンズがありますよ」などと巧みに誘導して売り付けるケースも報告されています。このため平松類博士も、高額な自費負担のレンズを巧妙に誘導したり、しつこく勧めてくる医師はやめたほうが賢明であることを、ご自身の著書 『その白内障手術、待った!』の中ではっきり指摘されています。
さらに、自由診療での眼内レンズの問題点として、価格以外にもう一つ注意しなければならない重大なリスクがあります。それは、これらの多焦点眼内レンズが厚労省の薬事未承認レンズであるため、手術後の合併症や不快な副症状、副作用などでの患者さんへの不利益による補償問題が生じた場合にも、厚労省では関知されずに 「自己責任」として、手術を受けた医療機関のみとの交渉となってしまう点です。しかも、このような多焦点眼内レンズのさまざまな不快光視現象、コントラスト視力 (見え方の鮮明度)の低下などの不具合に耐えかねて、眼内レンズを摘出し、通常の保険内の単焦点眼内レンズとの入れ替え手術を行なう際にも全て自費となり、健康保険を使うことは禁じられています。当然ながら、「自由診療」で支払った高額な多焦点眼内レンズの費用や手術料、その他諸費用は一切戻ってきません。このようなレンズの入れ替え手術を行なうケースが、米国では10%以上、日本でも少なくとも4%以上にものぼることが明らかにされています。 また、日本眼科学会の指針で決められた規約によれば、レンズの入れ替え手術は完全自費となることを患者さんに事前に説明しなければなりません。しかし、このことを説明しない眼科施設があり、ただ「多焦点眼内レンズが不調の場合は単焦点眼内レンズへの入れ替えも可能だ」などということのみを説明し、後で高額な費用をめぐってのトラブルになることも少なくないのです。

「自由診療」で支払った高額な多焦点眼内レンズの費用や手術料、その他諸費用は一切戻って来ず、
通常の保険内の単焦点眼内レンズへの入れ替え手術の費用も別途に高額な自費負担となります。

多焦点レンズの数多くの不快な副症状

日本眼科学会の指針には、多焦点眼内レンズのメリットとデメリットをきちんと理解することが必要だと明 記されていますが、眼科医の中には高額な多焦点眼内レンズを勧めたいがために、メリットしか伝えない施設 も少なくありません。このため、患者さん側も事前に知識を備え、もし多焦点レンズの適応となった場合であっても、そのデメリットについても十分に把握しておいていただくことが必要です。多焦点眼内レンズの表面にはレコード状の細かい溝が多数あるため、レンズ内に入ってきた光が散乱しやすくさまざまな不快な副症状が生じやすいという欠点があります。そのため、夜間や早朝、薄暮にはハロー(光の輪やにじみ)・グレア(ぎらつき)・打ち上げ花火のように光が四方八方に散らばるスターバーストなどの不快光視現象が見られます。

多焦点眼内レンズ
表面にはレコード状の細かい溝が多数入っているため、光が散乱しやすく、さまざまな不快な副症状が生じやすい。

また、このレンズは光を複数の焦点に振り分けるため、日中も視界が白っぽくかすんだりボヤケて見えるコントラスト視力(見え方の鮮明度)の低下や、まるで眼に油を塗りつけたようにドロッとしてはっきり見えない「ワクシービジョン」、見ている像の横に暗い影が出てくる「ゴーストビジョン」なども生じます。このように、多焦点眼内レンズは見え方の質が低下するため、夜間や薄暮、早朝などに運転することの多い方や白内障の程度の軽い方などにはお勧めできません。さらに、細かい視力を必要とする職業 (歯科医、外科医、眼科医、設計士、デザイン関係者など)や趣味 (刺繍やパッチワーク、洋裁、プラモデルなど)をお持ちの方には不向きです。最近、特に問題となっているケースとして、40歳代〜50歳代、さらに60歳代前半でも白内障の程度の軽い方で高額な多焦点レンズを売り付ける喧伝文句に惑わされて「遠くも近くも見えて、老視も治る」などと思い込み、多焦点眼内レンズを入れる手術を受けた方が大勢おられます。しかし、コントラスト視力の低下やハロー・グレアなどの不快光視現象に耐えられず、多焦点眼内レンズの摘出手術と単焦点眼内レンズへの交換手術をせざるをえなくなり、しかもそれらの手術は全て高額な自費負担で行なわれているというのが現状です。
このように、軽度の白内障の方はもちろんですが、細かな作業が必要な手術後の見え方の質にこだわりのある職業や趣味のある方や、細かいことがとても気になる神経質な性格の方にも、多焦点レンズは向いていないと言えるでしょう。
慶應義塾大学医学部眼科の根岸一乃教授らによる日本眼科学会での調査報告でも、多焦点眼内レンズの手術後の不満点として、①眼のかすみやぼやけなど、コントラスト視力(鮮明な見え方)の低下が不満足度の上位に位置し、次に②術後の遠方視力不良への不満、さらには③グレアやハロー、スターバーストなどの不快光視現象などの不満が多く挙げられています。しかも、手術前の問診や検査結果から、特に他の 眼病が無い場合でも術後の不満を回避することは困難であり、「実際に多焦点眼内レンズを入れる手術をしてみなければ不満例の予測がつかない」という事実も現実問題として明らかになっています。
一方、患者さんの性格面でも、非常に神経質な性格の患者さん、あるいは同じことを何度も質問されるような心配性の患者さんに対して説明が堂々めぐりになるような場合も、同様に多焦点レンズは不向きだと報告されています。さらに、多焦点眼内レンズを挿入手術後も、加齢に伴う緑内障や加齢黄斑変性、網膜静脈分枝閉塞症などの眼底出血、また、網膜前膜や網膜裂孔、網膜剥離などの眼の余病の併発により、多焦点レンズの特性のために遠方から近方まですべての距離での視力低下が顕著に生じるリスクがあります。加えて、加齢による脳での画像の解析機能低下により、手術後に視力などの視機能が低下する点についても了承が必要であることが指摘されており、注意が必要です。
以上のような例を消去法でふるいにかけると、多焦点眼内レンズが向いていると考えられる患者さんは、65歳未満の白内障の進んでいる方で、できるだけメガネの使用頻度を少なめに生活したい方、夜間や薄暮、早朝の運転や手先の細かい作業、薄暗い場所での作業などをしない生活環境にある方などです。さらに、緑内障などの視神経の病気、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの網膜の病気、角膜混濁やドライアイなどの神経の病気、糖尿病網膜症や不正乱視といった眼の余病と認知傾向も無い方で、「遠方から近方までほどほどに見えればよい。」というおおらかな性格と生活環境にある方に向いていると言えます

多焦点レンズによる不快な光像 (シミュレーション画像) <AMO 社提供>

多焦点レンズが適さない数多くの症例

多焦点眼内レンズは、人間の眼とは違うしくみで焦点をつくっています。すでに述べた通り、レンズの表面にレコードのような多数の小さな溝があるため、レンズに入った光が散乱しやすく、グレア (ぎらつき)、ハロー (光 の輪やにじみ)、打ち上げ花火のように光が四方八方に散らばるスターバーストなどの不快光視現象が、すべて の多焦点眼内レンズで生じることが明らかになっています。
さらに日中も、白くかすんでぼやけて見えるコントラスト視力の低下、まるで油が眼に付着したように 「ドロッとしてはっきり見えにくい」現象を自覚するワクシービジョンなどの症状が、ほぼすべての多焦点眼内レンズにおいて発生します。
この様に多焦点眼内レンズは、人間の自然な水晶体の見え方とは違うということを、しっかり認識していた だきたいのです。特に多焦点レンズの場合には遠方、中間、近方の像が視神経を介して一度に網膜(フィルムに相当)上に集まってきます。私たちの脳は、その多くの複雑な情報の中から見たいものだけを選んでいるのです。
このように、多焦点レンズから入ってくる多くの情報処理を、常に眼と脳は試行錯誤を繰り返しながら、必要な情報だけを拾い出して今まで見ていたような像に置き換えています。北里大学医学部眼科での研究報告でも、このような「多焦点レンズでの多くの情報処理と必要な情報だけを拾い出す作業を常時続けることは、眼と脳に相当大きな負担となることが明らかになっています。特に65歳以上の高齢者や、それ以下の方でも緑内障や眼底疾患、角膜疾患など網膜や視神経や角膜などの眼の余病のある方や認知傾向のある方は、手術後の遠方から近方まですべての距離において視力不良となることが分かっているのです。
このような理由から、特にこれらの各眼疾患のある方や高齢者などを含めた非常に多くの症例が、日本眼科学会の指針でも手術適応外となる除外基準とされたり、もしくは十二分なインフォームドコンセントの上で慎重適応とされています。

多焦点眼内レンズの手術適応外(除外基準)、もしくは慎重適応となる数多くの症例

角膜、網膜、視神経に病気のある方、弱視や認知傾向などで手術後に良好な視機能が期待できない方、緑内障による視野障害のある方、ぶどう膜炎にかかっている方
すなわち多焦点眼内レンズは、遠方 ・中間 ・近方の各距離に光を分散して振り分けてしまうため、前述のような視機能の弱い方は全ての距離でさらに不良な視力となってしまうので、手術適応外となる除外基準や慎重適応とされているわけです。
角膜の病気に関しては、角膜混濁や角膜外傷だけでなく、不正乱視などを引き起こす円錐角膜や高齢者にも有病率が高いドライアイも含まれています。また、網膜疾患については加齢黄斑変性や網膜前膜、眼底出 血などを生じる糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症、さらに網膜色素変性症、網膜裂孔やその前段階である網膜格子状変性、視野を障害される緑内障、視神経委縮などの視神経の病気と認知傾向や脳の機能に障害のある方なども手術適応外となる除外基準、もしくは慎重適応に挙げられています。
チン小帯 (水晶体を支える組織)が弱い症例
当県をはじめとして九州地区の高齢者にも非常に多い「落屑症候群」、アトピー性白内障や外傷性の白内障、強い近視など水晶体を支える組織であるチン小帯が弱い場合、単焦点眼内レンズであれば眼内レンズの傾きや偏心にも許容性を発揮して視力を保つことができます。しかし、多焦点眼内レンズでは手術後のレンズの傾きや偏心により、遠方から近方まですべての距離での視力が著しく不良となってしまうのです。そのため、高齢者の方やチン小帯が脆弱な上記のような症例も、日本眼科学会の指針により手術適応外となる除外基準の一つとなっています。
高齢者に多い「小瞳孔」の症例
高齢者に多いのが、加齢とともに瞳孔が小さくなる加齢性の縮瞳です。この小瞳孔の症例では、光を分散させる多焦点眼内レンズの機能が十分に発揮されず、かつ、コントラスト視力が一層下がって暗くなるため、手術適応外となる除外基準となります。
長年の眼科医経験から見た
「多焦点眼内レンズが向いている人、
向いていない人」
向いている人
  • 65 歳未満で白内障が進行している方で、眼鏡やコンタクトレンズの使用頻度を減らしたい希望の方(眼鏡やコンタクトレンズが不要となるわけではなく、約3割程度の方は何らかの形で必要となることも了承の方)
  • 網膜や視神経、角膜などの眼疾患が無く、かつ、認知傾向など脳の機能にも疾患の無い方
  • 手術後のコントラスト視力の低下や、ハローとグレアやスターバーストなどの不快光視現象や遠方視力の低下などの副症状についても承知し、忍容性のある方
  • 夜間の運転をされない方 (夕方や薄暮、早朝の運転を含む)
  • 高額な自己負担が可能な方(多焦点眼内レンズの自費負担に加えて、仮に眼内レンズ摘出と入れ替え手術が必要な事態が生じた場合でも自費負担の費用などの資金的余裕のある方)
  • 性格的におおらかで、あまり細かいことにこだわらない寛容な性格の方
  • 手先の細かい作業や薄暗い場所での作業、長時間の眼の酷使をしない生活環境にある方
  • 高齢者に多い「小瞳孔」では無い方
  • 高齢者に多い「落屑症候群」、アトピー性白内障、強い近視など水晶体を支えるチン小帯の脆弱性が無い方
  • 弱視傾向の無い方
向いていない人
  • 65歳以上の高齢の方
    (高齢になるほど手術後の視力低下傾向が強い)
  • 網膜や視神経、角膜や脳の機能などに疾患があり、手術後や経年後に良好な視力が期待できない場合
    • 網膜の疾患として、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、網膜色素変性、網膜裂孔や網膜剥離、網膜前膜眼底出血 (網膜静脈分枝閉塞症など)
    • 視神経の疾患として、緑内障や視神経萎縮など
    • 角膜の疾患として、角膜外傷や角膜混濁、ドライアイなど
    • 角膜の不正乱視のある方 (ドライアイを含む)
    • ぶどう膜炎などの炎症性疾患のある方
    • 脳の疾患として、認知傾向や脳動脈硬化などで脳の機能に障害のある方 (眼と脳で多くの視覚情報を処理する必要があり、視力低下症状に加え、不快症状や不眠症状を起こす可能性あり)
  • 夜間にも運転をされる方 (夕方の薄暮や早朝の運転を含む)
  • 手先の細かい作業や薄暗い場所での作業をされる方、長時間の眼の酷使をされる生活環境にある方
  • 細かいことにこだわる性格の方や何度も同じ質問を繰り返しされる方、マイナス思考で満足感を持てない性格の方
  • 軽度の白内障で自覚症状があまり無く、「老眼を治したい」などと思って手術を希望される方
  • 高齢者に多い「小瞳孔」の方
  • 高齢者に多い「落屑症候群」、アトピー性白内障、強い近視などで水晶体を支えるチン小帯が脆弱な方
  • 弱視傾向のある方

多焦点眼内レンズを勧める眼科医の中には、このような小瞳孔の患者さんに対して、手術中に瞳孔切開 (瞳孔の縁を小さなハサミで切開して広げること)を施して、無理にでも多焦点眼内レンズを入れる施設も少なくありません。しかし、小瞳孔の眼に対して瞳孔切開を行なったがために瞳孔が広がりすぎて、ハローやグレアなどの不快光視現象が強くなり、余計な副症状を増やす結果になっています。
このような患者さんには、全て健康保険適用となる単焦点レンズや高次機能非球面単焦点レンズが向いています。小瞳孔によるピンホール効果 (手術により水晶体が除去されるので、瞳孔がさらに10%小さくなるため)と単焦点眼内レンズの偽調節効果で、多くの方が不自由なく遠方から近方まで広い明視域を保つことができるのです。 以上の理由により、高齢者に多い「小瞳孔」の方には、多焦点眼内レンズは手術適応外とされています。

選定療養において現在使用されている主な多焦点レンズの特徴や不快な副症状と金額の暗闇

選定療養の適用で現在、主に使用されている多焦点レンズについて、解説します。

3焦点レンズ「パンオプティクス(日本アルコン社)」について

一般に、米国人がパソコンをする操作などの中間距離は60cm程度といわれています。そこで、中間距離のピークを60cmに設定することを可能にして、光の半分を遠くに、残りの半分を近くと中間に設計されているため、この3焦点レンズは遠方から中間、近方40cmくらいまで対応可能なレンズです。しかし、米国人とは違い日本人の場合には、本や新聞、スマホなどをかなり眼元まで近づけて見る生活習慣の方がかなり多いため、このレンズでは中間の40cmまでは見えますが、30cmからほど近くで物を見る習慣のある方には老眼鏡が必要となる可能性が多分にあり得ます。
この長所として、単焦点レンズに比べればコントラスト視力(見え方の鮮明度)はかなり劣りますが、連続焦点型の多焦点レンズ (シナジー)に比べると比較的良い点です。また、瞳孔径の大きい3ミリ以上の方や夜間など暗所で瞳孔が広がった際にもグレア(ギラツキ現象)、ハロー(光の周りに輪がかかったように滲にじんでぼやける現象) の自覚症状はありますが、連続焦点型の多焦点レンズ(シナジー)に比べるとやや少ない傾向があります。このため、30代から50代の比較的若い方で遠方視力が比較的良好であった人で、もともと遠視などがあり、手術後も遠方から中間距離を重視する方には向いているとされています。一方で、欠点としては、眼に油を塗り付けたように見える「ワクシービジョン」などの副症状もあり、近方を中心に仕事をする方には非常に不向きで老眼鏡が必要になり得ます。また、色収差が大きく色の違和感を手術後に訴える方も認められますので、医師、歯科医師をはじめ医療関係、和洋裁や装飾関係、デザインや絵画、写真など色彩に関わる仕事や趣味を持つ方には注意が必要です。
さらに、手術後の問題点として、この3焦点眼内レンズ(パンオプティクス)では手術後1ヵ月頃から全 症例において「グリスニング」や「ホワイトニング」と呼ばれる細かいサイダーの泡のような細かい白色の混濁がレンズの中に生じてきます。そして、経年とともにレンズの混濁が増して白濁化し、コントラスト視力のさらなる低下の原因となるのです。また、眼科での診察時にも網膜裂孔や加齢黄斑変性、緑内障、糖尿病網膜症などの眼底(眼の奥)や視神経の病気の診察・治療にも支障をきたすことが眼科の学会でも多数報告され問題となっています。
なお、このレンズの「グリスニング」や「ホワイトニング」などによる手術後の副作用をできるだけ抑えるため、アルコン社が製造方法や素材の親水性を工夫することで「グリスニング」や「ホワイトニング」の改善を図った新製品として「クラレオン・パンオプティクス」が発売されています。同社による基礎実験データでは「グリスニング」の抑制効果が報告されていますが、まだ長期的な正式な臨床試験での「グリスニング」や「ホワイトニング」の抑制効果は明らかになっておらず、今後の評価が待たれます。また、パンオプティクスと同様に中間距離を重視してレンズ設計されているため、近方が見えづらくなりやすく、老眼鏡が必要となり得ます。
これらの3焦点レンズの金額は、前述の理由と事情のため各眼科施設により大きく異っています。例えば、熊本県内の各眼科での開示された保険外併用療養費の金額は、クラレオン・パンオプティクスが17万500円〜34万円、乱視入りクラレオン・パンオプティクスが19万2500円〜39万5000円となっています。また、パンオプティクスは16万9500円〜33万円、乱視入りが18万1500円〜38万5000円と表示されています。

連続焦点レンズ「シナジー(ジョンソン&ジョンソン社)」について

シナジーは連続焦点レンズといわれ、遠方から近方33cm程度まで比較的見えやすい特徴があり、もともと近視などがあり、近方視力を重視する方に向いているとされています。しかしながら、光を多方向に分散し、さらに、遠方から中間・近方までの多くの画像の中から、一つだけを選び出さなければいけないため、眼と脳に相当の負荷がかかることが北里大学医学部眼科の研究結果でも明らかになっています。また、3焦点多焦点レンズのパンオプティクスと比較しても、遠方の視力低下と遠方のコントラスト視力(鮮明度)の低下が明らかになっています。すなわち、「見えることは見えてはいるが、遠方が白っぽくかすんで見える」、遠方の視力が出てはいても 「ぼやけて見づらい」などの不快症状があります。また、不快光視現象として、ハロー(光の周りに輪がかかった様に滲にじんでぼやける現象)、グレア(ギラツキ現象)やスターバースト(花火のように光が散って見える現象)などの症状もパンオプティクスよりもさらに強い傾向があります。また、日中も異常光視症(ディスフォトプシア)と呼ばれる耳側の視野の周辺に三日月のような光線や影が見えるという異常光視 現象も特徴で、夜間や薄暮、早朝の運転は危険となり、運転なさる方には向いていません。このため、眼科の医療関係者の中では、シナジーは「まぶしいレンズ」との異名もある通り、夜間だけでなく日中も眩しさを強く感じる傾向が明らかとなっています。
以上の理由から、瞳孔径の大きめの方には非常に眩まぶしくて見えづらくなるため、中等度以上の瞳孔径の方 には向いておらず、瞳孔の小さい小瞳孔の方のみがシナジーの手術の適応となり得ます。
しかしながら、小瞳孔の方であれば、単焦点レンズや高次機能非球面単焦点レンズ (アイハンス)の手術でも、遠方から中間、近方近くまで良好な視力が得られる上に、全て保険適用されますから金額的にも低額で安心です。しかも、シナジーの欠点でもある不快光視現象やコントラスト感度の低下などの不快な副症状もありません。すなわち、単焦点レンズやアイハンスでは小瞳孔によるそのピンホール効果と眼内レンズの偽調節効果、さらに、 近見反応などにより、遠方から近方近くまで良好な視力を得られる可能性が高く、さらに、これらの眼内レンズに当院開発の「コンフォートモノビジョン法」®での手術を行なうことで、さらに遠方から近方までの広い明視域を獲得して快適な視生活が低額な健康保険のみで可能となります。従って、わざわざ高額な費用と多くの副 症状や屈折ズレ、残余乱視などによる、遠方から近方までの視力不良などの多くのリスクを背負って、シナジーでの手術の必要はないという意見も少なくありません。
このように、パンオプティクス及びクラレオン・パンオプティクスならびにシナジーにおいては、高齢者の場合は脳と眼にかなりの負担がかかります。また、仮に50代〜60代での手術でも5年〜10年後に高齢者特有の緑内障や加齢黄斑変性などの眼病を併発した場合には、視機能が著しく低下するリスクもあります。しかも、手術後の加齢による認知傾向など、脳と網膜や視神経などの機能の低下でさらに視力が出にくくなり、かすんでぼやけて見える症状が強くなることを覚悟する必要があります。
なお、すでに手術前の時点で、緑内障などの視神経の病気、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、網膜静脈分枝閉塞症などの眼底出血を伴う病気、網膜裂孔や網膜前膜などの病気、また、角膜混濁やドライアイなどの 角膜疾患や不正乱視、ぶどう膜炎などの余病や合併症がある場合には、多焦点レンズは日本眼科学会の指針でも手術適応外の「除外基準」として手術の基準から外すことが明記されています。しかし、一部の眼科施設では、残念ながら実施されています。
3焦点レンズの項でも、熊本県内の眼科での開示された保険外併用療養費の金額の大きな価格差について触れましたが、同様に熊本県を例に取ってみますと、前述の理由と事情により、シナジーの費用は15万4000円〜33万円(乱視入りの場合が17万6000円〜38万5000円)で金額表示されています。

焦点深度拡張型眼内レンズ「シンフォニー(ジョンソン&ジョンソン社)」について

シンフォニーは、従来の 「多焦点レンズの弱点」と言われていたコントラスト視力の低下によるかすみやボヤケを軽減し、遠方から中間までの視力を比較的良好に見えるようにした眼内レンズです。
このため、「老眼を治すための多焦点レンズ」という元々の目的との矛盾はありますが、コントラスト視力の低下を抑えるため、近方の視力を犠牲にしているので、近方は老眼鏡が必要となり得ます。ただ、あまり近方の視力にこだわらない方については、比較的遠方から中間までかすまずボヤけずに見えやすいレンズであり、「患者さんからのクレームも少ないレンズ」として、以前 (令和2年3月末まで)認められていた「先進医療」で一部の眼科で好んで使用されていました。
しかしながら、ハロー、グレアとスターバーストなどの副症状は多焦点レンズの宿命として出現します。すなわち、シンフォニーでもレコードのようなレンズの刻みの溝が多数あるため、強いハロー(光の周りに輪がかかったように見える現象)やグレア現象(ギラツキ現象)やスターバースト(光が花火のように散って見える現象)が不快光視症状として出現することが知られています。このため、現在ではシンフォニーに替わって保険適応があり低額で済む低加入度数分節眼内レンズ「レンティス・コンフォート」が遠方から中間までの明視域がほとんど変わらず、かつ、ハローやグレアやスターバーストなどの不快光視現象が非常に少ないため、現在では多く使用されるようになり、以前に比べシンフォニーはあまり処方されなくなっています
しかしながら、他の多焦点レンズが残余乱視や屈折ズレに対して遠方から近方までの全ての距離で顕著な視力低下をもたらすのに対し、シンフォニーの場合はある程度の残余乱視や屈折ズレに対して裸眼での視力を維持できる許容性もあるため、眼科施設によっては現在も根強く使用されています。熊本県内での各眼科での開示された保険外併用療養費の金額として、「シンフォニー」の費用も前述の理由と事情により眼科施設により大きく価格が異なり、11万円〜22万円(乱視入りが13万2000円〜27万5000円)で金額表示されています。

乱視矯正の「トーリック眼内レンズ」はその効果の安定性に問題あり

一般に、高齢者の方でも軽度の乱視に関しては、加齢性の縮瞳(瞳孔が小さくなる)に加えて単焦点眼内レンズの場合には、偽調節効果で中間距離の視力も向上するメリットがあります。逆に、多焦点レンズの場合には、わずかな度数の屈折ズレや乱視の残存(残余乱視)などでも遠方から近方まですべての距離での裸眼視力が明らかに低下することが、どの多焦点レンズでも全般的に認められています。 単焦点レンズの場合には、単焦点レンズで乱視矯正が一般的に必要と考えられている矯正度数は1.5ディオプトリー(以下D : 度の強さを示す単位)を超える乱視であり、約1割程度に存在すると言われています。一方で、多焦点レンズでは0.5Dの乱視の残存でも、遠方から近方まで全ての距離で裸眼視力が低下するため、わずかな乱視に対しても矯正が必要となっていきます。
このため、多焦点レンズに関しては、トーリック眼内レンズ(乱視矯正入りの眼内レンズ)がわずかな乱視の症例にも挿入されているのが現状です。そして、多焦点眼内レンズを盛んに奨めている眼科では、トーリックレンズで全ての乱視が解決出来るかのような喧伝をネットなどで広告しています。
しかしながら、このトーリック眼内レンズの最大の問題点は、その効果の安定性が保証されない点です。すなわち、トーリック眼内レンズの乱視の軸に合わせて挿入しますが、1度ズレる毎に矯正効果が3%減弱し、度以上軸がズレると矯正効果が全くなくなるばかりか、医原性の新たな乱視を生み出すことが判明しています。特に手術後1ヵ月以内は水晶体の囊(袋)と眼内レンズの癒着がないため、わずかな振動や衝撃などでもトーリックレンズの軸が容易に時計方向に回転する「プロペラリング」という現象を起こし、軸ズレを生じることが明らかになっています。
このため、トーリックレンズを手術で入れた場合、眼科施設によっては患者さんを手術台ごとそのまま病室まで移動させて絶対安静を保たせたり、振動などを避けるため、手術後しばらくは振動を与える乗り物や生活動作は控えるようにとの指導をする眼科施設もあるほどです。また、トーリックレンズの挿入と併せて、保険適用外のストッパーを別途に眼内に挿入して「プロペラリング」による乱視の軸ズレを抑える試みなども行なわれていますが、これらの方法を以ってしても、トーリックレンズの軸ズレを防止する解決法にはなっていないのが現状です。
また、このトーリックレンズの手術後の軸ズレについてははっきりとした原因も明確にされておらず、眼科学会で軸ズレの原因や防止対策について毎年のように議論されていますが、軸ズレを完全に防止することは困難な状況が続いています。

さらに、トーリックレンズの根本的な問題点として、トーリック眼内レンズは乱視の軸が中心に設定してあり、かつ、左右対称にされていますが、人間の眼の乱視は左右非対称で、度数も軸も左右で全く違います。しかも、ほとんどのトーリックレンズの乱視度数は、最低度数でも1.5Dの度数からしかなく、しかも0.75D刻み毎での度数設定でしかないため、どうしても残余乱視が生じてしまいます。これを完全に矯正するには無理があり、残余乱視などによって多焦点レンズでは遠方から中間、さらに近方まで全ての距離の視力が低下することが問題になっています。しかも、トーリック入りの多焦点レンズのさらに高額な費用も問題となっています。というのも、高額な通常の多焦点レンズの金額に加えて、トーリック入りの多焦点レンズではさらに余分に2万円、眼科施設によっては5万円以上金額を追加して請求されるという実態もあります。このような多焦点レンズを盛んに奨める眼科によっては、手術前の検査を1回のみとし、後は手術中に「デジタル化手術」などと称してベリオンやORA(オラ)システムなどといった術中測定を行なって判断しています。このような数千万円もの費用の機器を入れ、しかも、そのためのメンテナンス料が毎年180万円以上も要する高額な医療機器の購入費用分が、自由診療や選定療養などでの多焦点眼内レンズ手術の高額な金額にも反映されていることが、業界関係者からの情報により指摘されています。
これに対し、当院では、手術前までに充分な準備を整え、術前検査で少なくとも複数回以上にわたり、かつ、複数の習熟した検査スタッフが複数の高精度の眼内レンズ計測機器にて眼内レンズ度数などの検査を実施するようにし、2回目以降は検査を無料で行ない、入念な準備の上で眼内レンズの度数を決定しています。
なお、当院での独自の乱視矯正については第10章(→10章へ移動する)で述べますが、このような数千万円もする高額な医療機器などは不要とし、当院では数千円のカメラの電子水準器を利用し、高精度の乱視の軸を決めることができる電子式トーリックマーカー装置を導入して、乱視矯正手術に活用しています。数万円のコストで医療メーカーや一部の眼科が盛んに喧伝する数千万円の「デジタルシステム」と同等の働きをするその有用性により、特許庁に実用新案の登録認可を申請中です。
このように、当院ではより最良の医療をより低価格で提供することを全ての面で追求して行なうよう日々努めています。

超高額な厚労省未承認の「自由診療」の多焦点眼内レンズの価格の暗闇と術後のリスク

自由診療での手術費用については、選定療養での多焦点レンズよりもさらに不明朗な暗い闇の部分があることは事実です。
すなわち、自由診療に使われるレンズは厚生労働省の薬事未承認の眼内レンズのため、外国から輸入代行業者を通して手術する眼科医が個人輸入という形で輸入して購入し、患者さんの眼内に挿入する手術を行ないます。そのため、手術前の検査から手術ならびに手術後の検査、また、薬剤費などを含めて完全な自由診療となり、健康保険が全く使用できません。このため、先述した通り、手術費用が選定療養の多焦点レンズよりもさらに非常に高く設定されています。
現在、自由診療で使われている主な多焦点眼内レンズとして、ベルギー製のPhysIoL社のファインビジョン(片眼で40万円以上、乱視入りが45万円以上)、また、ドイツ製のツァイス社のアトララ(片眼で35万円以上、乱視入りが45万円以上)、及びアトリサ(片眼で60万円以上、乱視入りが65万円以上)などの価格となっています。
さらに、厚労省無認可であるフェムトセカンドレーザーによる部分的なレーザー手術を実施された場合は、オランダ製のレンティスやアクリバ・トリノバ、イスラエル製のインテンシティなどのレンズが使用され、眼科施設によっては片眼で85万円〜100万円を超えるケースも珍しくありません。 しかしながら、このような厚労省の薬事未承認の自由診療による白内障手術は、選定療養の眼内レンズよりもさらに暗い「価格やリスクの闇」の部分がいくつもあることが問題となっています。すなわち、厚労省の薬事未承認で国内では無認可であるため、仮にヨーロッパなどでの認可を受けていたとしても、実際、国内で手術を受けた場合には、手術後の合併症やさまざまな副症状や不利益などでの補償問題が生じたとしても、「厚生労働省の薬事未承認である故に、自己責任である」などとして厚労省では関知されず、手術を受けた医療機関のみとの交渉となります。
このため、平松博士の指摘の通り、このような厚労省の薬事未承認の非常に高額な眼内レンズを眼科でしつこく勧められたり、「◯◯さんにピッタリの舶来性の最高級の眼内レンズがありますよ」などと巧妙に誘導や勧誘をする眼科医も少なくないため注意が必要です。
また、手術後の見え方の不満や不調などのために、単焦点眼内レンズに入れ替える手術をする際にも、支払った高額な自由診療での多焦点レンズ代を含めた費用は当然ながら戻っては来ず、かつ、眼内レンズ入れ替え手術の費用も全て自費となることが日本眼科学会の指針で決められた規約でもはっきりと明示されています。この場合、特殊な例外を除き、健康保険を使用して眼内レンズの入れ替え手術を行なうことは健康保険法の違反となり禁じられています。
しかも、自由診療で使用される非常に高額な眼内レンズとその手術料の内訳において、外国からの眼内レンズ代の納入価格も、また、患者さんへの販売価格も厚生局などへ届出する必要は特にないため、各眼科で自由に決められています。すなわち、例えるならば、納入価格も分からない宝石を非常な高額で2個購入する行為よりもはるかに高いリスクを自己責任で背負う結果になり得ます。

自由診療におけるさらに超高額な「レーザー部分白内障手術」のリスクと数多くのデメリット

レーザー白内障手術は2013年ごろからよく話題となってきた2008年にハンガリーで開発された白内障の「部分手術方法」です。つまり、レーザー白内障手術というと、「レーザー光線を使って白内障を全て除去する夢のような手術方法」であるかのように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。フェムトセカンドレーザーというレーザー光線を使って角膜を切開し、前囊に丸い穴を空け(前囊切開)、水晶体を分割するまでの処置をメスの代わりにレーザーで行ないます。自らの手を使わずに機械任せの処置のため、この方法を好む眼科医もいます。しかし、このレーザーでは準備や器械の設定だけで10分以上もの時間を要します。
このように、レーザー白内障手術の第一のデメリットとして、通常の手術よりも手術時間が相当に長くなることです。しかも、レーザー白内障手術では、手術の工程の肝心な部分、すなわち、水晶体を取り除くという難しい作業は別所の手術台まで患者さんの移動を要する上に、これまで通りの超音波を使っての手術が必要となります。
これに対し、通常の白内障手術では習熟した眼科医であればレーザーの器械をセットしている間の約10数分間の時間の内にそれだけですべての手術が終わってしまいます。さらにまた、悲しいことでありますが、レーザーの器械に前囊切開や手術創の作製を任せるためにその眼科医の手術技量が極端に低下していくことが明らかになっています。
このように、時間とコストをかけてレーザーで処置したうえ、患者さんを別の手術台に移し、消毒して、またそこから超音波手術を実施することは患者さんにとって心身への相当な負担になりかねません。また、レーザーはコンピューターで制御されるため、眼科医が行なう手術とは違って、コンピュータートラブルが発生した場合に途中で制御がきかなくなり、それらのトラブルに対応出来ない点でも医療事故の原因となるリスクが指摘されています。
第二のデメリットとして、切開創のきれいさという点でも、レーザーは小さな点で切開をするため、切り口を拡大すると、郵便切手の端のようなギザギザになってしまう点です。このため、創口の治癒が遅れ、手術後に眼の異物感も強く出るというデメリットも多くあります。第三の重要なデメリットとして、レーザー白内障手術が一般に比べ非常に超高額になることです。レーザー白内障手術に使用するフェムトセカンドレーザーは厚労省の認可がないため、保険適応で行なうことはできません。しかも、レーザー手術装置も約5000万円以上と非常に高額で、メンテナンス費用も毎年数百万円もかかります。
このため、レーザー白内障手術はすべて完全自費診療となる上に、費用も片眼85万円以上で、なかには100万円を超えるケースもあります。しかしこれほど超高額な費用をかけ高額な器械を使用しても、必ずしも患者さんがすべて満足いく良い結果が得られるわけではないことを知っておいていただきたいと思います。 さらに第四の大きなリスクとして、今後、手術中及び手術後の様々な合併症等による患者さんへの不利益が生じた場合にも、厚労省の未承認の故に「自己責任」などとして厚労省では関知されず、手術を受けた医療機関のみとの交渉となるため、レーザー白内障手術や厚労省未承認の自費の眼内レンズ手術を受ける前には慎重な検討が必要であることを理解頂くことが重要です。
これらの多くのデメリットやリスクなどの理由から、事実、一時期すごい勢いで売れていたレーザー白内障手術装置は世界的な傾向で見ても下火となってきています。この事は新しい器械や「デジタル化手術」などと宣伝されていても、それが必ずしも良いものであるとは限らない一例といえます。むしろ、質の高い安全な手術を効率よく低コストで実施することが何よりも重要だと私は考え、これまで長年努力してきました。このことは眼内レンズも同じで、必ずしも新しいものが良いとは限らず、さまざまなデメリットがあることをお伝えしています。

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