Cataract 白内障
04.適切な時期での白内障手術による
「健康な老後」のための数多くの有用性
根治には限界ある薬物治療
白内障は外科手術で治療するのが一般的ですが、進行を遅らせるための薬物療法として「ピレノキシン点眼薬」(商品名=カリーユニほか)などが使用されています。これは、水晶体の老化を抑えるのに役立つとされており、白内障の進行抑制に有効であると考えられています。
また、眼の栄養機能食品のCMでよく耳にする「ルテイン」「アスタキサンチン」といった抗酸化色素やビタミンCなどの栄養成分の摂取による白内障の進行抑制効果が明らかとなっており、これらを高容量含有する眼科専用のサプリメントも眼科専門医の指導のもとで販売されています。
しかしながら、これらの薬剤や栄養成分は、いずれも白内障の原因である水晶体の濁りそのものを取り去って「根治」させるものではなく、白内障の進行を抑える程度の効果しかないことも判明しています。
一方、白内障の症状に見られる「かすみ眼」や視力低下などの自覚症状を和らげるために、漢方薬の内服が用いられることもあります。具体的には「牛車腎気丸」「八味地黄丸」などです。これらの漢方薬も、先に挙げた点眼薬や内服薬と同様に、あくまでも進行を抑えたり症状を緩和させるものであって、白内障を根治させるものではないということを念頭において、白内障の症状が適切な時期に最新の治療法である「極小切開法」(MICS)で治療をして頂くことをお勧めしています。なぜなら、老化を完全に防ぐ魔法の薬はないからです。
実際のところ、白内障の薬物治療が有効な例は、白内障が軽度で視力障害も軽微な時期であると考えていただき、眼科専門医から処方される点眼薬などが勧められることがありますので、お肌のお手入れと同じような感覚で眼科主治医医師の指示に従ってください。
白内障の手術が唯一の根治治療
前述のように、白内障を根治させる(水晶体の濁りを完全に取り去る)のは、薬物治療では困難だということが、残念ながら現段階では事実なのです。眼の老化現象である白内障を完全に治療(根治)するためには、現在、手術が唯一の方法となっています。しかも、白内障手術は現在、多くの外科手術の中でも非常に安全度が高く、確立された手術となっています。
眼科に限らず、今日の日本ではさまざまな外科系の手術が数多く行なわれていますが、白内障手術ほど件数の多い手術はありません。白内障は加齢に伴って増える病気ですから、超高齢化社会へとまっしぐらに突き進んでいるわが国では、白内障手術の件数はウナギ上りに増加中で、年間約166万件(厚生労働省2019年度NDPオープンデータより)もが実施されており、近々200万件を突破する勢いです。世界中で6500万人以上もが治療の必要な白内障だといわれる現代においても、根治させる唯一の方法として手術が実施されているのです。
詳しくは次章で述べますが、当院で実施している最新の手術方法である「極小切開法白内障手術」(MICS)は、わずか2ミリのごく小さな創口から、水晶体の濁った組織の代わりに、柔軟な高品質の眼内レンズを小さく折りたたんで挿入するというものです。眼を手術することに抵抗のある方も少なくないと思いますが、手術法や眼内レンズは長足の進歩を遂げており、当院での約1万2500例もの手術患者さんのご感想でも「心配したような痛みもなく、明るい快適な視生活を取り戻すことができた」と感じる方がほとんどでごくしょうす。当院での「極小切開法白内障手術」(MICS)の創口はわずか2ミリという驚くほど小さなマイクロレベルの手術法であり、これまで全症例において日帰りによる手術が可能になっています。
白内障の放置は重大な余病合併の引き金に!
最近では定期的に歯科医に通い、歯のホームドクターを持つ人が増えてきてはいますが、中高年の方でも眼科のホームドクターを持って定期的な診療を継続しておられる方は、まだ割合としては少ないようです。しかし、年齢とともに眼は確実に老化していきます。そして、白内障は老化による眼病です。慢性疾患だからといって放っておかず、定期的な検査と診療を行なう眼科専門のホームドクターを持つことで、健康を維持していきたいものです。
しかし、「ぼやけたり、かすんで見えにくいが、白内障は、いよいよ見えなくなってから手術をすればよい」などと安易に考えがちの方も少なくないのが現状です。
ところが実は、白内障の放置は重大な余病の合併症を引き起こす危険が隠れているのです。白内障と同じように加齢とともにかかる眼病で、中高年の失明原因の第1位として最近急増しているのが「緑内障」です。さらに、動脈硬化・高血圧や糖尿病などによる「眼底出血」や「加齢黄斑変性」など、眼の奥で起こる合併症を伴う場合もあるので、手遅れにならないように注意が必要です。この様な理由から、白内障の進行状態やそれに伴う視力低下の進み具合だけではなく、放置すると怖いこのような合併症の有無なども含めた眼科ホームドクターの定期的なチェックをお勧めするのです。
もしもチェックを怠れば、これらの合併症の早期発見と治療が手遅れとなるばかりではなく、白内障の進行による核の硬化と組織の脆弱化により白内障の手術そのものにも合併症のリスクが増して、しかも視力の回復が遅延するケースも少なくありません。まさに「後悔先に立たず」です。また、自身でも「白内障だけだ」などと決め付けずに、どうか手遅れにならないためにも、眼のかすみや視力低下を感じるようになったら、メガネを作り直す前に、まずできるだけ早めに眼科専門医での診察を受けましょう。
不自由を感じた時期に放置せず、適期の手術が必要
かつて白内障手術の技術や機器がまだ十分に発達していなかった昭和50年代前半あたりまでは、白内障がかなり進んで瞳が真っ白になり、指の数も数えられないほど視力が低下するまで待ってから、水晶体を全て摘出する手術を行なわなければならない悲しい事情がありました。
しかし、今では技術の進歩と眼内レンズの開発に伴い、生活に不自由を感じるようになった時点が手術に適切な時機となり、ごく小さなわずか2ミリの極小切開創による手術が積極的に実施されるようになりました。
このため、眼科での診察や手術が怖いので「さらに見えなくなるまでもう少し様子をみよう」などとして放置することは手術自体をさらにむずかしくし、余病まで併発するという多くのリスクを背負うことになります。
現代社会では、生活に必要な情報の90%以上もが眼から入ってくる視覚情報だといわれています。テレビや新聞、パソコン、スマホなどを快適に見るためには0.5以上の視力を要します。また、運転免許の更新には以上の視力が必要です。
しかし、室内での検査では0.7以上の視力があっても、細かい手先の仕事や趣味に支障をきたしたり、屋内での視力は良くても屋外や逆光時では非常にまぶしく、運転などに不便や危険を感じたり、日常生活に支障をきたすようになったら、白内障手術の適応時機だと考えてください。そして、その時点で先延ばしにせず、できるだけ早めに眼科専門医を受診するのが賢明でしょう。
一般的には、新聞や読書などの通常の生活に支障をきたすような視力0.5を下回った時点が、白内障手術時機の目安となります。ただ、自覚症状には個人差もありますので、その方の求める視生活のレベルに応じて、それ以上の視力であっても手術の時機となる場合も少なくありません。
特に地方においては、高齢者ドライバーの割合が非常に高く、白内障への対処も重要な問題となっています。
運転をされる方は0.7以上の視力が必要となるため、0.7を下回った時点が目安となります。しかし、前述の「後嚢下」の部位や中央部に白内障の強い濁りがある場合などでは、室内では良好な視力であっても、屋外や逆光などで著しい視力低下をきたすケースも多く、0.7以上の視力でも手術に踏み切る場合があります。
また、高齢の方で白内障の進行を自覚していても、手術を怖がるあまり「どうにか我慢できる範囲なので、できればまだ手術せずにこのままでいたい」と手術を先延ばしにしたがる声をよく耳にします。しかし、放置しているうちに、白内障が進行して石のように硬くなったり、組織が脆弱化して手術時にさまざまな合併症を生じるリスクが高まるケースも少なくありません。さらに、狭心症などの心疾患や脳梗塞などの脳血管疾患など全身の病気が発生したり悪化してしまい、白内障の手術を受ける機会を失ったり、手術の際に全身の合併症が悪化するリスクが高まってしまう患者さんも数多くおられます。結局、そのまま白内障が悪化して認知症も併発し、視覚障害が進んで寝たきりや要介護となり、ご本人の苦痛やご家族の負担も多大なものになる例は、残念ながら枚挙にいとまがありません。
「極小切開法」(MICS)により、近視や遠視も治り、乱視も改善する
第5章と第6章で詳しく解説しますが、当院では、世界最小でわずか2ミリからの「極小切開法」(MICS)と最高品質の眼内レンズによる白内障手術を、すべて保険診療内で実施しています。この手術法は、白内障を根治するだけではなく、遠視や近視も軽くして治すことができ、同時に乱視の改善も図ることができます。そのため、視力回復も顕著で「眼科医療の中で最大の成果」とされています。
視力低下により、転倒や交通事故の多発と「老人性うつ病」や「認知症」も早期に発症
白内障は、特別な人がかかる病気ではなく、白髪やシワ、体力の衰えと同じように老化とともに進行していきます。五感の中でも重要な「見る」器官の衰えは、日常生活への支障をきたすだけではなく、実は放置すると、精神的な機能の障害へと発展しかねないということも忘れてはなりません。実際、白内障の高齢者には「うつ」が多く、すでに認知症になっているケースもあり、放置することでさらに悪化していきます。
なぜなら、人間は身の回りの情報の約90%以上を眼(視覚)から得ています。眼は「情報の窓」であり、この働きが衰えてしまうと情報量の著しい減少により毎日の生活から活気が失われていき、「うつ」状態や認知障害に陥ってしまうことが明らかになっています。
すなわち、白内障が進行すると、テレビを見たり本や新聞を読む、仲間と健康マージャンやグラウンドゴルフを楽しむ、野山を散策するなど、趣味や娯楽も存分に楽しむことができなくなってしまいます。しかも、「藤原京スタディー」という奈良県立医科大学眼科の緒方奈保子教授らの白内障手術と認知機能についての有名な調査研究報告によると、白内障によって明るい光の刺激による24時間の体内時計のシステムにも支障が生じ、睡眠の質の低下や不眠症、さらに、「うつ」や「認知症」などによる健康寿命の低下などに繋がることも明らかになっています。
白内障手術学の権威で筑波大学医学部眼科の大鹿哲郎教授の調査研究報告でも、両眼が白内障の患者さんはすでに軽い「うつ」状態になっており、気分も落ち込んでいるケースが少なくないことが確認されています。さらに認知機能のテストを受けてもらうと、認知障害(МCI)も起こっていることが分かります。
本当の認知症ではありませんが、認知症の傾向が強くなっているのです。そんな方が白内障の手術を受けると、気分が明るくなって「うつ」も良くなり、認知障害も改善することが、大鹿教授らの調査研究によって実証されました。
実はそれよりも以前に、著者が平成3年時に実施した東京都千代田区に住む在宅の要介護の高齢者を対象にした眼科的調査においても、白内障の手術後に視力が向上することで、介護レベルが改善し、生活の質(QOL)も上がることが判明しています。当時、地域レベルでの寝たきりおよび要介護高齢者の眼科的な調査研究は、世界でも初めてのことで画期的な報告として注目されました。また、この研究成果は、今日の介護保険での眼科的状態の審査判定を行なうための重要な参考資料として寄与しています。現在、開業医として多くの臨床経験を積んできましたが、顔から喜怒哀楽の表情が消えて無表情になってしまっている認知障害の患者さんが、白内障の手術を受けることで数日後には、視力の向上とともに顔に表情が戻ってきて、とてもいい笑顔をなさることを数多く経験しています。眼科医として一番うれしく思い、生きがいを感じる瞬間です。
このように、白内障手術は明るい老後の視生活の向上をもたらすことで、活動範囲や趣味も広がり、心身ともに健康で長生きすることを助長してくれるアンチエイジング(若返り)法の一種として捉えられているのです。
放置するほど高まる余病と合併症のリスク
白内障の放置により、手術時の眼と全身のさまざまな合併症のリスクが増えてしまうことを繰り返しご紹介してきましたが、最終的には手術自体もこのような理由でむずかしくなってきます。長期に放置した場合によくある問題点として、白内障が高度に進行して「核」の部分が非常に硬くなり、「芯」ができてしまうのです。白内障がここまで進行してしまうと非常に扱いにくく、放置すればするほどむずかしい手術を余儀なくされるのです。
しかも、水晶体が硬くなると同時に、水晶体を包んでいるカプセル(後嚢)やこれを支える組織「チン小帯」が脆弱(薄く弱い状態)になってしまっているため、これらの組織が手術中にも傷みやすく、眼内レンズの固定が悪くなるなど視力回復への悪影響を生じやすくなります。通常の症例では発生することの少ない「後嚢破嚢」や「チン小帯断裂」という合併症を起こすリスクも著しく増大します。
このため、かなり進行するまで放置された白内障では、やむをえず12ミリ以上も切開創を広げて、水晶体の核を丸ごと取り出す「嚢外摘出法」で手術を行なわなければならないことも少なくありませんでした。さらに、白内障を放置しておくと、それだけでもさまざまな合併症を起こす場合が見られます。例えば、白内障が熟していく過程で、水晶体が眼内の水を吸って急激に膨張し、眼内の水の排水口(隅角)を塞いで、急に眼圧が著しく上昇する「急性緑内障」の発作を起こすことがしばしばあります。また、片眼の視力は良いからと、もう一方の白内障を放置した場合も、このような急性緑内障を発症する危険のほかに、手術して快適なほうの眼ばかり使ってもう一方を使わないために、廃用性の外斜視となってしまい、後で手術したとしても術後にものが二重に見える「両眼複視」を発生するケースもあり、術後も視力の回復に時間がかかってしまいます。
このような理由から、白内障をいたずらに長く放置しておくことは、うつや認知症の発症リスクと共に手術後の合併症のリスクも高め、術後の視力回復にも悪影響を及ぼすことがわかり、現在では日本白内障屈折矯正手術学会でも、見えなくなるまで放置せず、不自由を感じた時点で悪化する前に手術を実施するように、患者さんに啓発している次第です。
誰もが罹る「白内障」手術を受ける前に
知っておきたいその真実と秘訣
- 01 自分では気付きにくい白内障
- 02 白内障は、すべての人に発症する逃げられない眼病
- 03 老眼デビューは白内障の初期症状で、老眼の進行には要注意
- 04 白内障の適切な時期での手術による「老後の健康」のための多くの有用性
- 05 最良の白内障手術の実施のための当院の取り組み
- 06 進化した最新の白内障手術「極小切開法手術」(MICS)を実施
- 07 健康保険のみで可能な高機能付加価値眼内レンズと単焦点眼内レンズの勧め
- 08 「多焦点眼内レンズ」をめぐる数多くの問題点
- 09 健康保険のみで快適な視生活を実現する当院開発の新治療「コンフォート・モノビジョン法」®(特許庁認可登録)による白内障手術
- 10 丁寧さと安全確実性を求めた最良の白内障手術を追求して